220 / 313

第229話 15-54

タイガは自分でも意外な程にカツラの女装姿に欲情させられていた。 背の高い椅子に腰かけたカツラの太ももはミニスカートから丸見えの状態で、しかもなんのためらいもなく足をくんでいる。露わになったカツラの白い太ももから意識を逸らすためにタイガは全神経を総動員しなければならなかった。 「カツラ、まんざらでもないんじゃない?楽しんでみたら?」 余程カツラの女装姿に満足したのだろう。カツラを魅力的な女性へと変身させたヘザーが今の気持ちを聞いた。 「こんなスースーする格好、普段からできるか。落ち着かないんだよ」 そうは言いつつカツラは足を組むのをやめるつもりはないようで、タイガの気持ちは一行に落ち着かない。 「お前、だまっとけ。せっかくの女装が台無しだ」 だめだしをするゼファーをカツラが目を細めて睨みつける。 当初タイガはゼファーが新たな恋敵になるのではと警戒していたが、二人のやりとりを見ていると、カツラとゼファーの関係はただの幼馴染でそれ以上のものはないと思い始めていた。 カツラが再びヘザーに話を振る。 「そのスポンサーとやらは相手が男で大丈夫なのか?まさか口がきけない女を演じろとか?」 「大丈夫、大丈夫。彼はバイだから!」 「はあ?俺が女装する必要あったのかよ?」 「今夜は事情があってどうしても女性と踊りたいらしいの。彼の友人、ストレートの友人ね、その人にこの店を紹介する予定で。SNSを使うんだって。美人と一緒に楽しんでる姿を見せたいらしいわ。写真だと男か女かなんてわからないでしょ?印象がよければその友人もいろいろと協力してくれるらしいから」 「なんかいけすかない野郎だな」 ゼファーがみんなの気持ちを代弁した。ヘザーの話を聞いてその場にいる全員がそう思った。カツラははぁと小さなため息をつく。 「全然っ。みんなが思っているような人じゃないから。いい人よ」 その時、カウンターに置いていたヘザーの携帯が鳴った。 「噂をすればだ。彼が着いたみたい。出迎えに行ってくるわ」 ヘザーはご機嫌で入口の方に向かった。彼女の後ろ姿を見送りながらゼファーがぼそりと呟く。 「カツラ、ヘザーのためだ。我慢しろよ?タイガも了解したんだからヤキモチやくんじゃねぇぞ」 「別にヤキモチなんか…」 ゴニョゴニョと言い淀むタイガにカツラが肩に手を置いた。 「心配するな。フリだ。上部(うわべ)だけ取り繕ってさっさと終わらせる」 そんなことを話していると、ヘザーが男を連れて戻ってきた。男はタイガたちが想像していた容貌とは全く違っていた。身長はヘザーより少し高いくらい、ふくよかな体格でここでは浮きそうな雰囲気をもつ男だ。ぱっと見若く見えるが、若者向けでない白いポロシャツを行儀よく黒いスラックスにインしているため年は30歳前半と予想できる。ダークブラウンの髪を七三で分け、色白い肌にかわいらしい明るいブルーの瞳がキョロキョロと動いていた。ニコニコと微笑みを浮かべるその男はヘザーが言うように人の良さそうな印象を与えた。 「紹介するわ。彼はチーゼル。うちのスポンサーよ。チーゼル、彼らは常連なの」 タイガたちの元に戻ったヘザーが互いを紹介した。男は感じの良い笑顔でパッとタイガたちを見、カツラで視線が止まった。視線がカツラに釘付けだ。 「チーゼル、カツラよ。今日一緒にダンスする子」 ヘザーがチーゼルの視線に気付いた。カツラの腕を取り、チーゼルの前に連れて行き紹介する。 「驚いたな。こんなに綺麗な子と…」 チーゼルは今だカツラをマジマジと見つめている。紹介されたカツラはチーゼルの舐めるような視線に居心地が悪そうだが、ヘザーのためにやや笑みを浮かべている。 「じゃ、早速一枚いいかな?」 チーゼルはポケットから携帯を取り出しカメラモードに切り替えた。それをヘザーに手渡す。ヘザーの言う通り、SNSにあげる写真を撮るのだろう。 「いいかな?」 チーゼルはカツラにも同意を求めた。前もってヘザーから聞いていたカツラはチーゼルの横に立った。ハイヒールを履いた長身のカツラは余計に背が高くなった。チーゼルの隣りに並んだカツラはチーゼルより頭二つ以上身長が高い。並んだ二人はどう見てもお似合いではなく、滑稽だ。 「じゃ、よろしく」 ヘザーに満面の笑みでシャッターを頼んだチーゼルはそんなことにはお構いなしで、大胆にもカツラの腰に手を回した。はっきりとわかるウエストとヒップの境目にチーゼルの手がいやらしく当てられる。タイガは自分のこめかみに青筋がたつのがわかった。 二人が微笑んで写真が一枚撮り終わる。しかしチーゼルはカツラの腰からまだ手を離そうとしない。その手は大胆にも少し下、ヒップの丸みが始まるとこまで下りてきている。それを見たタイガが無意識に立ち上がろうとする。 「痛っ!」 チーゼルが突然声をあげタイガは咄嗟に動きを止める。カツラが自分の尻に置かれたチーゼルの手の甲を思い切りつねったのだ。

ともだちにシェアしよう!