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第230話 15-55

いきなり強く手をつねられたチーゼルはびくっとなり、慌ててカツラの尻から手を離した。 「おっさん、調子にのるなよ?」 特に声を変えることもなく普段と同じ声色でチーゼルにカツラが言い放った。 「ぷっ」 ゼファーはこうなることを予想していたのか、笑いを噛み締めた。椅子から立ち上がりかけたタイガは再び椅子に腰を下し、ことの成り行きを見守る。 「ちょっ、カツラッ!」 チーゼルは店のだいじなスポンサーだ。ヘザーがカツラの切り返しに慌てて声をかける。 「君…??男…?」 その完璧な女性にしか見えない外見と今耳にした声とのギャップにチーゼルは驚きのあまり声が上ずっていた。 「チーゼル、今夜あなたの相手をする子が急遽こられなくなってしまって」 ヘザーが慌てて理由を説明する。カツラはどうなっても知るかと言わんばかりに腕を組んでそっぽを向いていた。チーゼルはヘザーの話を聞き、ようやくカツラが男だと理解したようだ。信じられないものを見るようにカツラを見た。 「そう…そうか。別に構わないよ。それに…」 チーゼルはカツラから視線を離さず続けた。 「ぼくは綺麗なものが好きなんだ。気にしないよ、君が男でも。逆に感動した!君みたいな男がいるなんて」 カツラはチーゼルがこんな反応をするとは思っていなかったようで、片眉を上げ少し戸惑った様子でチーゼルを見た。 「早速あっちで一緒に踊ろう」 チーゼルはカツラの手をとり、ダンスフロアへと連れて行ってしまった。カツラはヘザーの顔を見るが、ヘザーは声を出さずに口だけでよろしくねと言っただけだった。 タイガもカツラと目が合ったが同意してしまった以上、おとなしく見守るしかなかった。 チーゼルたちがダンスフロアに向かったとき、ちょうどDJが声をかけ、ノリのいい曲が流れ始めた。他の客たちも踊り始め、店内は前より賑やかになる。 カツラの前で踊るチーゼルは意外にダンスが得意らしい。満面の笑みをカツラに向けながら、難しいステップを踏みリズムに合わせて踊っている。チーゼルは何とかしてカツラの気をひきたいようだ。しかしカツラは全くチーゼルには興味なく、周りの様子を見ながらリズムに乗り体を動かしているだけだった。 「聞いていいかな?」 カツラはチーゼルに話しかけられ視線を彼に向ける。 「何?」 「女装は趣味なのかい?」 「まさか。ヘザーに頼まれたんだ。あんたをボッチにはできないからって」 「はははっ。でも僕は君といられてラッキーだよ。その髪は地毛?ウィッグ?」 「こんなの地毛なはずないだろ」 カツラが長い髪を肩に払いながら言った。カツラからすれば無意識にしたなんともない仕草だったが、チーゼルは大いにそそられた。 「残念だな。今日はこの後急遽予定が入ってしまって、ここには長くいれないんだ」 「そうなんだ」 カツラはチーゼルに悟られないように心の中でガッツポーズをした。 「でも後、2、3曲は大丈夫だから。一緒に楽しもう」 ノリノリのチーゼルは周りの注目を浴びていた。誰彼構わずハイタッチをし、楽しんでいる。 チーゼルのそばで踊るカツラにも否応なく視線が集まる。「あのスレンダーな美女はいったい誰なのか」と。 一曲目が終わって喉が渇いたとチーゼルが言うので、カツラとチーゼルはカウンターに向かう。タイガとゼファーがいない反対側だ。 チーゼルはビールを頼み一気に飲み干した。カツラは適当にカクテルを頼みチーゼルを観察しながらグラスに口をつける。 「気づいてた?ほとんどの人がきみのこと見てるよ。みんなまさか君が男だとは思ってないよ」 このチーゼルという男はよく話す。そしてかなり稼いでいるらしいが偉ぶったところもなく物腰は柔らかい。へザーが言うようにどこか憎めないキャラである。 「そうだ。僕の名刺…」 「今もらってもしまうところがないから」 チーゼルがポケットから名刺ケースをとり出すのを見、カツラが両手で制しながらそういうとチーゼルはカツラの服装を改めて見た。男性だが女性のように細く見事な曲線を描くカツラの下半身にゴクリと生唾を呑む。 チーゼルは自分の意識をカツラの体から逸らそうと軽く咳払いをして自分の仕事について話し始めた。仕事の内容、利益はどれぼどか、今後の目標などなど。 カツラはもともと聞き上手なので、チーゼルは酒の力もあり気分がかなりよくなってしまったらしい。将来この店の有力なスポンサーになるかもしれない友人にまた写真を送ろうとそばにいる店員に携帯を渡し、自分とカツラの写真を撮るように依頼する。 二人そろってカメラに笑顔をむける。チーゼルは酒のせいか、懲りずにまたカツラの腰に手を滑らせた。カツラが冷めた目で見ても臆することなく「行こうか?」と行ってカツラの腰に手を沿わせたままダンスフロアへと歩き始めた。 最初こそチーゼルの馴れ馴れしい態度にキレたカツラであったが、あと数分の我慢だと言い聞かせ、はぁとため息をつきいちいち気にすることはやめた。 次の一曲はノリのいい曲で、その後の曲は雰囲気がガラリと変わってバラードになった。二人で踊っていたカップル達は肌を密着させたり、半分抱き合いながら曲に合わせ踊り始める。 「僕はこの曲が終わったら帰るよ。この曲だけそれらしく付き合ってくれないかな?」 カツラは不服だったが、チーゼルはヘザーの大切なスポンサーだ。しかも一応カツラにお伺いをたててきた。仕方なくチーゼルに合わせることにした。 「これが限界」 カツラは両手をチーゼルの肩に乗せ、カップルがするよう微妙な距離を保った。チーゼルは顔を近づけ「ありがとう」と囁いた。先程写真を依頼した店員にチーゼルが合図し、数枚シャッターが切られる。余程友人に自慢したいらしい。カツラは呆れながらもヘザーのために一肌脱ぐことにした。軽く微笑み恋人らしく見えるように振舞う。そんなカツラの態度の軟化に気をよくしたチーゼルはカツラのウエスト下、ヒップの両サイドに手を添えた。その手はまるでカツラの豊満なヒップを確認するように手の平全体を隙なく密着させていた。ヒップの弾力と柔らかさを味わうように密着した手が僅かに上下する。カツラは気付いていたが早くこの時よ過ぎろと思いながら、頭の中ではタイガのことを考えていた。

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