222 / 312

第231話 15-56

タイガはカツラの行方を目で追っていたが、DJが曲を回し始めたこともあり、人がダンスフロアに集まり出した。人混みの中、長身のブロンドが時々見えたり見えなくなったりで、二人の様子はよくわからなくなってしまった。 椅子にすわったまま首を伸ばし左右にゆらしながらカツラを探すタイガにとうとう呆れてゼファーが声をかける。 「そんなに気になるならお前も踊ってこいよ?」 「え…いや…、ダンスは得意じゃないから」 「カツラは護身術やってんだし、変なことにはならないって。さっきもブチギレただろうが」 「それは…。そうなんだけど…」 タイガは仕方なくカウンターに向き直り、まだ残っているカクテルを飲んだ。そばには先ほどカツラが飲んでいたカクテルがまだ置かれたままだ。グラスには薄く赤いルージュがついている。タイガはそのグラスを手にとり、カツラの残したルージュの上に口をつけ、カクテルを飲み干した。 一連のタイガの行動を目にしたゼファーは呆気に取られていた。親友のパートナーはかなりやばい奴だと。ビーチで会った中年男といい、どうしてこんな強烈な奴ばかり集まるのか。みなカツラに強く執着している。カツラがそうさせているのだろうか。 カツラとは友達以上、恋人未満のゼファーはこの状況が面白くて仕方がなかった。傍から見ているとコメディーにしか見えない。 やがて休憩を挟むためかノリのいい曲から一転バラードにかわった。カップル達以外は酒を飲むためダンスフロアから移動する。人がはけ、カツラとチーゼルの姿がようやくカウンターからでもはっきりとわかるようになった。 カツラはチーゼルの肩に両手を置き、チーゼルの手はカツラのウエストのすぐ下、ヒップラインの上部に置かれていた。二人は何か話しているのか、カツラは軽い笑みを浮かべている。チーゼルは満面の笑顔だ。いったいなにを話しているのか。見た目は不釣り合いな二人だが、楽しそうに見えるその雰囲気から恋人といえなくもない。 「あいつすげぇな。しっかりたらし込んでやがる」 長年の付き合いから、カツラがその気になったら拒絶できるやつなんてそうはいないとわかっていたゼファーだったが、久々に友人の人たらしテクニックを見、一人心の中で賞賛していたつもりだったが、言葉になって出ていたようだ。 ゼファーの言葉を受けて、のそっと暗い影がゼファーにかかる。はっとし隣りを見ると、タイガが立ち上がり今にも二人のところに詰め寄りそうだった。 「おいおいおいおいっ!」 ゼファーは慌ててタイガの前に腕を伸ばした。 「今にも飛びかかりそうじゃないか。さっき、ヘザーから聞いたろ?もうこの曲で終わりだ。カツラも頑張ってんだから、お前もがんばれよ?」 タイガは拳を固く握りしめ、ゼファーを睨んだ。ゼファーが一瞬怯むほどタイガは余裕をなくしていた。目は怒りのあまり血走りこめかみには軽く青筋がたっている。人相までがらりとかわってしまっていた。ゼファーに止められたタイガは呼吸を荒くしたままカツラたちの方に目を向ける。 タイガの視線がカツラの尻に集中する。チーゼルの手は今やしっかりとカツラの豊満な尻に当てられその丸みや感触を確認するかのように上下に動いていた。 ダンスフロアの照明はこの場所より明るい。 チーゼルにまさぐられながらゆっくり揺れ動くカツラの尻を見ていると豊満な丸い尻の形がはっきりとわかる。タイトなスカートのため、割れ目までうっすらとわかるようだ。タイガははっとした。「まさか、今日もTバックなのか?!」タイガは焦った。あんな短いスカートでは頼りなさすぎる。引き上げられたら尻が丸見えではないか。 剥き出しになった、真っ直ぐ伸びた長い足には艶がある。タイガは今初めて気づいた。「カツラ…。もしかして…ストッキングをはいているのか?」タイガが軽い衝撃を受けている間に長い一曲が終わった。我に返りカツラとチーゼルを見ると、二人は軽くハグをしていた。チーゼルの手はこれは自分のものと固辞するようにカツラのヒップとウエストに添えられていた。タイガは訳が分からなかった。何故簡単に他の男にあんなところを触れさせるのか。あれは自分のものなのにと怒りが頂点に達し、いたたまれなくなった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 曲が終わった。 チーゼルから依頼されていたため、最後は軽くハグをした。チーゼルの手がどさくさに紛れて尻を撫でまわしていることに不快感はあったが、ヘザーのためと思い耐えたのだ。カツラはチーゼルの両手をしっかりつかみ体から引き離す。 「かなりサービスしたんだから、ヘザーの店によくしてやってくれよ?」 カツラは意味わかってるよなと言いたげにチーゼルを見据え気持ちを伝える。 「もちろん。いやぁ、楽しかったよ。はははは」 体に長時間触れたことをごまかすようにチーゼルが笑う。確信犯だったようだ。 「お友達にもよろしくな?」 カツラは今夜一番大切なことを伝えた。このために不本意ながら女装し、好きでもない男と踊ったのだから。 「大丈夫!まかせて」 カツラは軽く微笑みチーゼルから離れる。チーゼルは預けた携帯をとりにカウンターに向かうはず。カツラのお役は終了だ。 「じゃな」 「あ、君。男ともいけるんだろ?今度…一緒に食事でもどう?男性の姿でかまわないから」 カツラが驚いた顔でチーゼルを振り向いた。 「結婚してるんだ。他、あたって」 カツラはそれだけ告げさっさともといたカウンターに向かう。そこには瞳の色をとても濃くしたタイガが突っ立ちカツラのことをじっと見ていた。

ともだちにシェアしよう!