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第236話 15-61
タイガは一曲目は我慢したが、次の曲で店全体が一体感に包まれたように感じ、居ても立っても居られなくなった。タイガの表情を見て、ヘザーが言う。
「行ってきたら?なんとなく体動かすだけでも楽しいから」
タイガはヘザーに言われなくてもそうするつもりだった。カツラたちを探すべく、踊っている人混みの中に入っていった。
カツラは目立つ。特に今夜は女装をしているせいか、人目を余計に引いていた。光輝くブロンドをなびかせかて、ゼファーと息ぴったりで踊っている。
二人はカップルに見えた。そう思うほど、二人の距離は自然だがとても近い。微笑み合いながら今の時間を楽しんでいる。
次のターンでゼファーがカツラの肩にかかる髪を払った。すぐに腰に手を回し、カツラの体を確認するように自分の方に引き寄せる。普段から距離が近いせいか、カツラは全く気づいていない。
ゼファーがカツラを見つめる眼差しは恋人にむけるものだ。ゼファーが何をしようとしているのかすぐにわかったタイガはカツラに声をかけた。
「カツラッ!」
「タイガ?」
カツラはすぐにタイガのほうに来た。カツラにとって自分は特別なのだ。ゼファーが立ち去りタイガはカツラを抱きしめながら曲に合わせ踊り始めた。
「ダンスが苦手だって?普通にリズムとれてるじゃないか」
「そんなに踊ったことないし。柄じゃないから」
カツラはとても楽しそうだ。タイガの体に触れながら女性らしくステップを踏む。
絶世の美女が体のラインがはっきりとわかるセクシーな服装で腰を振り体をくねらせる。曲に合わせ踊るその姿は妖艶だった。
カツラはタイガと目を合わせたままタイガのたくましい胸に両手で触れ、腰を振る。そしてリズムに合わせしゃがむように体を上下させる。嫌でも形の良い尻が目立つ。傍目には美女のセクシーな踊りに次第にタイガ達の周りには一緒に踊ろうと人が集まり出した。タイガはカツラの体には常に触れ、変な輩がつかないよう警戒しながら踊った。
曲調が変わるとタイガは背後からカツラを抱きしめて手を交差させ繋ぐ。そうすると体がピッタリと密着されタイガは安心することができた。曲に合わせて二人でリズムをとる。カツラもタイガに体をすり寄せてきた。「今日はまじでやばい…。カツラが積極的で」タイガはもう一人の自分とギリギリのところで戦いながら、カツラの体の感触を堪能した。
ようやく曲がやみ、フリータイムになったようだ。タイガとカツラは手を繋いだままカウンターに戻る。
「まるで普通の恋人ね。カツラはうまく化けるわね」
遠目に二人の姿を確認したヘザーがゼファーに話しかけた。
「うまく化かしたな」
「ま、そうなんだけど。元がいいからね、カツラは。全体的に線が細いし、美形だし。肌なんて嫉妬するぐらい綺麗なんだもん」
「あら?」
「どうした?」
「カツラ…ストッキング脱いだのかしら?やっぱり慣れなかったかな」
なんのことを言ってるのかわからないゼファーは無言でヘザーに続きを促す。
「カツラ、ストッキング履いてたの。そのほうが女性らしく見えるかと思って。今は…生足よね?」
ゼファーも目を凝らしてカツラの足を見る。確かに今カツラは素足にサンダルを履いている。「まさか、あいつらあの時ヤッタのか!?」カツラがタイガの様子を見に行った時。人目を忍んで行為に及んだ可能性はおおいにある。ゼファーの脳裏に初めて二人を見た時の衝撃的な絵が蘇る。
「はぁ、楽しかった。久々に踊るのも悪くないな」
カツラがヘザーに酒を注文しながら言った。タイガは一緒に踊ったことで何か吹っ切れたのか、カツラと手を繋いだままで、背後からもう片方の手でしっかりとカツラの腰を抱いている。
「タイガもなにか飲むか?」
カツラは振り向きながら、タイガと繋いでいる手に自分の手を重ねながら尋ねた。
「同じもので」
二人は見つめ合い微笑み合う。お互いが愛おしくてたまらないというふうに。
ゼファーは酒が飲みたい気分だった。女装をけしかけたのは自分だが、まさかこんな展開になってしまうとは。
不貞腐れグラスを見つめていたゼファーは視線を感じ顔をあげる。するとヘザーと目があった。ヘザーはゼファーの気持ちに気づいたようだ。
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