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第237話 15-62

深夜を過ぎた。タイガはあれからずっとカツラに密着していた。店内では同性異性を問わず、周りのカップルたちも自分たちの世界に入り込んでいる。 ようやくタイガは今夜楽しいと思えるようになっていた。時々踊り、休憩して酒を飲みながら話す。他の見ず知らずの者とも会話を交わすが、みなタイガに「君の恋人はホットで最高だ」と囃し立てる。カツラはその度に夫婦だと訂正した。カツラの声を聞きみな一瞬驚くが、この店はそれありきの店なので周りはなおさらテンションがあがり、「めでたい、おめでとう」と祝福の言葉をかけた。タイガは本当に夫婦になったのだと実感した。そして気づくといつの間にかゼファーの姿が消えていた。 「そろそろ俺たちは帰るか?タイガもほろ酔いだろ?」 「まだ大丈夫だよ。そんなに飲んでないし」 タイガとカツラは誰の目も気にせずに男女の恋人がするよう顔を寄せ合いながらイチャイチャと話していた。するとゼファーが店の正面のほうからこちらに向かってきた。 「ゼフ。どこ行ってたんだ?」 「ああ、まぁ、ちょっとな」 ゼファーの言葉は心なしか歯切れが悪い。タイガはゼファーは気分でも悪くなったのかと思ったが、カツラはそれ以上ゼファーに追求することはなかった。 「そろそろ帰るか?」 話題を変えるようにゼファーも帰宅を提案した。 「今ちょうどそう話していたところだ」 気づくといつの間にかヘザーもカウンターに戻ってきていた。タイガたちは彼女に別れを告げ、店を後にし駐車場までを歩く。 ゼファーは一人先々と足早に歩いていく。様子がおかしい。やはりなにかあったのだろうか。タイガは不思議に思ったが、カツラは全く気にしていないようで、タイガと腕を組みながら会話を楽しんでいる。タイガはそんなカツラがかわいらしく愛おしく思いカツラとの会話に集中する。 「服はよかったのか?着替えなくて」 タイガはカツラの服が入った紙袋を持っていた。カツラは女装姿のままなのだ。 「もちろんこれは返すさ。ゼファーに託けて。ストッキングは新しいのを買わないとな?」 カツラがニヤリと笑いながら最後は小声で囁いた。 「カツラ...。ゼファーは何かあったのか?」 タイガはゼファーの様子が気にかかり、たまらずにカツラに尋ねた。 「ん?」 「様子が変じゃないか?」 「タイガ…」 カツラはやはり何か知っているのか少し微笑み話し始めた。 「お前はやっぱり鈍いな」 「え?」 「かわいい、かわいい」 カツラはそう言ってタイガの頬にチュっとキスをした。 「カツラッ」 女装のせいか、普段のカツラよりかなり積極的な絡みだ。人に見られても構わないからだろう、タイガへのイチャつき方がストレートだった。 「ふふふっ」 微笑むカツラは魅力的でタイガは今さらながらに心臓がドキドキとした。 「で、なんなんだよ?」 そして恥ずかしい気持ちを隠すようにカツラに答えを急かした。 「ゼファーからはヘザーの香水の匂いがした。多分、やったんじゃないかな?」 「え?」 タイガは最初カツラの言った意味がわからなかった。しばらくして理解したタイガはカツラが言った言葉が信じられなかった。ゼファーは明らかにまだカツラに気があった。今夜確信したばかりだ。 「なんで?」 口から出た言葉はタイガの素直な疑問だ。 「さぁ?久しぶりに再会して意気投合したんじゃないか?」 「そんなこと…」 「タイガにはあり得ないだろうな。そういうところ、大好きだ」 カツラはまたもやタイガにキスをしてきた。今度は耳に。こういうイチャツキに慣れていないタイガはあたふたしながらゼファーの行動に再度疑問を投げかけた。 「でもだからって、あの態度は」 「恥ずかしいんだろ。近くにいたらヘザーの匂いで丸わかりだ。ま、車が一緒だからあまり意味ないかもしれないけど」 衝撃のあまり黙りこくるタイガにカツラが提案する。 「気づかないフリしてやろう?」 タイガには信じがたかった。しかし車に乗ると、カツラが言った通り確かにヘザーの香がした。 帰りもカツラが助手席に座る。一緒に後部座席に座ろうかとカツラに提案されたが、タイガは断った。カツラが隣りにいたら自分を制御できる自信がないからだ。 帰り道、特にゼファーの態度は変わったところはなかった。何気ない話をしながらタイガたちを家まで送り、帰って行った。 「あいつ、車でヤッタな」 毎晩タイガとのセックスに勤しむ自分のことを差し置いてやれやれお盛んな奴らだと言わんばかりだ。 「え!」 「タイガ、気付かなかったのか?匂いが籠ってたろ?ヘザーの。お似合いなんじゃないか?」 カツラは全く気付いていないが、タイガはゼファーはカツラを吹っ切るためにヘザーを抱いたのではとようやく思いあたった。 「タイガ、帰ろう?」 カツラが再び腕を組んできた。 「うん」 夜はまだ長い。ようやく二人きりになれる。タイガはもちろんカツラを心の思うままに抱くつもりだ。

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