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第247話 15-72

覚悟はしていたが、カツラに心ときめく女性が大勢いた事実を聞きタイガはやはり嫉妬した。自分こそがカツラをものにするとカツラに群がる女性たちにタイガは過去のこととはいえ、気分が悪くなった。そうやっていいよる女たち何人とカツラは関係をもったのだろうか。暗くなった気分を無理やり立て直すためにタイガは本題に気持ちをもどす。 「告白は?君から??」 努めて冷静にシラーに尋ねる。 「残念だけど、カツラからよ。私たちのクラスの出し物は大いに盛り上がって」 カツラから告白したと聞きタイガは胸にドスンと鉛が落ちたような気持ちになった。シラーは美人だ。カツラもやはり好みなのだろうか。女性との交際経験も豊富なカツラの過去を目の当たりにし、タイガは少し複雑な気分になった。再び暗い気分に飲み込まれないように小さな深呼吸をし質問する。 「女装男装をしたって」 「知ってるんだ?カツラから聞いた?」 ダリアがその話はとっておきという勢いで身を乗り出す。 「ゼファーから」 「ま、その話はおいおいね」 タイガが気にしているだろうとまずはカツラとの話とシラーはそれかけた話を軌道修正する。 「学園祭の後、急接近したんだよね?」 ダリアが待ちきれない様子でシラーに話の先を促した。シラーが再び話し始める。 「カツラから誘われて二人で出かけたの。そこで付き合おうって言われて」 その時のことを思い出したのだろう。シラーの頬が僅かに紅潮した。カツラのこと、本当に好きだったんだとタイガは言葉が出なかった。しばらく沈黙が続く。 「まあ、その後がね」 気まずい空気を破るようにダリアはそう言った後、シラーに探るような視線をむけた。シラーは数秒黙っていたが意を決したように話し始めた。 「正直に言うとね。あんな美形に告白されて天にも昇る気分だった。警戒していたカツラはとっても感じがよくて。私もいつの間にか惹かれていたし。いろんな別れ話の噂も耳にしていたけど、相手に問題があったんだって思ってた」 シラーはしてやられたと言わんばかりに首を振る。 「まさか翌日にやっぱりなかったこたにしてって言われるとは」 「え?」 いよいよ話の核心に迫る。タイガはシラーが一日で別れたと言ったのが文字通りなのだとやはり驚きを隠せなかった。 学園祭でカツラと親しくなったシラーはカツラからの誘いで近くのビーチに出かけた。初めての2人きりだ。 最初は楽しかった。告白をされ、受け入れて。告白をオーケーした瞬間から手を繋ぐ。触れたかったカツラと5本の指を絡めて恋人繋ぎだ。カツラの少し冷たい細くて長い指が心地よい。触れ合った手からカツラはもう自分のものなのだとシラーの気持ちは高鳴った。どうでもいいことでもカツラと話すと話が膨らみ、とても楽しい。異性とすごしこんなふうに感じることができるなんて奥手のシラーには新発見だった。 そして話の合間、合間にカツラは無意識なのか意識してなのか胸にキュンとすることをしてくるのだ。二人だけですごすこの数時間でシラーはすっかりカツラに夢中になっていた。今日もしかしたらキスをするかもしれない。そんな淡い期待もあった。幸せいっぱいのシラーはまさかこのすぐあとに自分がどん底に落とされるとは思いもしなかった。 喉が渇いたシラーは飲み物を買ってくると言い、代わりに買いに行くと申し出たカツラをその場に残し、近くのカフェに向かった。このカフェのジュースのフレーバーはフルーツ系で癖になる爽やかさと甘さがちょうどいいバランスで話題だった。女子の間で人気があり、カツラも気にいるはずだとシラーは今日の素敵な思い出の一つにしようと思ったのだ。シラーは2人分のドリンクを手に急いでカツラが待つビーチへと戻った。 ビーチにはカツラがいた。そして、見ず知らずの女子も。彼女はシラーもはっとするほど可愛らしい子だった。途端に胸の中にドス黒いものがこみあげる。 「カツラッ!」 シラーは思い切りいい声でカツラの名前を呼ぶ。なにを遠慮する必要がある?自分はカツラの彼女なのだから。シラーの声にカツラが振り返る。同時にそばにいた女子もシラーを見た。その目は「なにこの女?」と言っていた。 「これ。とても美味しいの。飲んでみて」 シラーは堂々とカツラの隣に腰を下ろしながらカツラにジュースを手渡す。 「これ人気あるジュースね!どんな味?」 カツラとシラーのやり取りを冷めた目で見ていた女子は可愛らしい顔に似合わず厚かましくもカツラがシラーから受け取ったジュースに自分の手を重ね、ストローに口をつけた。咄嗟のできごとにシラーは防ぐこともできなかったし、言葉もでなかった。 「美味しいっ!!これって何系になるの?」 シラーの気持ちなどお構いなしに自分の口に手を当て可愛らしい仕草で堂々と感想を述べる女子。シラーがあっけにとられ言葉を失ったままでいると、カツラも味に興味をもったのか、そのストローに口をつけた。 待って、それって間接キスでしょ...。シラーの心に暗い声が響いた。 「甘いな。こんなのがいいのか?」 シラーの思いは虚しく、カツラにはこのジュースは合わなかったらしい。それだけで済めばよかったのだが、なんとカツラは自分の口に合わないジュースを再びあの女子に向けた。もちろん女子が断る理由はない。なにしろ彼女もができるのだから。女子は遠慮なくストローに口をつけ、「美味しいのに」と口を尖らせながらカツラにつぶやいた。彼女の感想に「マジか?」と微笑みながら答えるカツラ。まるで恋人のようにイチャつく2人についにシラーの堪忍袋の緒が切れた。 「それ、私が買ってきたジュースよ。飲まないでくれる?」 「あなたがカツラにあげたのを私がカツラからもらったのよ?なにがいけないの?」 全く悪びれることもなくその女子は開き直ったようにこう言った。シラーがなにか言いかけたときにトドメを指される。 「シラー。ジュースぐらいで怒んなよ?」 カツラは何故シラーが腹を立てているのか気づいていないのか、見当違いの言葉を発した。これはシラーにはこたえた。目頭が熱くなる。 「ジュースぐらい?」 「カツラ。この子、怖いんだけど?」 女子はカツラの腕に手を添え助けてと言わんばかりだ。 「なんなの、さっきからカツラカツラって!」 シラーは家族以外に対してここまで感情を表したことがなかった。 「シラー、友達なんだ。昔付き合ってた彼女の友人。偶然会ったんだ」 カツラはその女子が自分の名を呼ぶことはおかしなことではないと言いたかったのだろう。カツラも女子もなにがいけないことなのかという雰囲気だ。まるで今腹を立てているシラーがおかしいのだというふうに。カツラはなぜ自分の味方をしてくれないのか。シラーはいたたまれなくなった。 「私、帰るわ」 シラーはそう言って早歩きでビーチを後にしたが、カツラに追いかけてきてほしかった。しかしカツラは追いかけてくることもなく、挙げ句の果てに翌日の学校で告白はなかっことにしてほしいと言われたのだ。

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