239 / 312
第248話 15-73
「カツラは人の目なんてお構いなし。翌日教室でみんながいる前で言われたの。告白はなかったことにしてって」
シラーはお手上げというふうに両手で額を支えながら言った。
「え?!」
あまりの展開の早さにタイガは声が出てしまう。タイガの反応に同意を得たりとダリアも当時のことを話す。
「もうびっくりよ。そんな話は聞いていなかったし。みんなてっきり前から秘密にして付き合っていたのかと思ったの。まさか1日なんて思わないじゃない」
タイガは彼女たちの口から聞くカツラの過去に衝撃を受けた。まさか本当にこんなことがありうるとは。自分からシラーに告白をしたにもかかわらず。シラーのショックは計り知れないものだっただろう。
「私にもプライドがある。だから承諾したわ。でも理由だけは教えてって」
シラーはしっかりとタイガの目を見据えて言う。その目は自分には非はないと語っていた。
「理由は?」
タイガはシラーからどんな言葉が発せられるのか緊張した。しかしここが一番の核心である。
「面倒くさそうだから」
ゼファーからも聞いていた。カツラは面倒なことは大嫌いだと。シラーのビーチでの態度にそう思ったのだろうか。タイガはシラーに何と言っていいのかわからず言葉を失った。
「ビーチの件はカツラが悪いでしょ?同じ男としてどう?今カツラがそんなことして普通にしていられる?」
ダリアはその時の気持ちが甦ったのか怒り心頭だ。親友が理不尽な目にあったのだからダリアの気持ちは理解できる。
タイガは答えに困った。自分ならシラーよりも酷い態度を取るだろう。現に今までそうだった。しかし、何故かカツラはタイガには面倒くさいとは思わないのか別れ話にはなっていない。
「タイガはよっぽど人間ができているのね」
ダリアはタイガをマジマジと見てこう言った。些細なことがきっかけですぐに別れを選択してしまう。そんなカツラと結婚までこぎつけたタイガの人間性はすぐれていると思われたようだ。実際は全く違うのだが。
「カツラは変わった。今は...。君にひどいことをしたと思っていると思う」
二人の女性はお互い顔を見合わせた。「信じられない」と言っているようだ。
「俺はその…。カツラより年下だし。まだまだ自分でもガキだと思うところもある。カツラがいろいろ我慢してくれてると思うんだ」
「そうなの?にわかには信じられないなぁ」
押し黙るシラーを援護射撃するようにダリアは言い切った。
「ったく。どうしてまた女装なんてしないといけないんだ?」
遠くから聞こえるのはカツラの声だ。タイガは意識だけそちらにむける。
「せっかく昔馴染みの顔が揃ったんだし」
「すごく綺麗よ!」
話がちょうど一区切りついたところで騒がしい声がする。声のする方に視線を向けると長い廊下の先には三人の女性がいる。どうやらベロニカとデージーが戻ってきたようだ。もう一人は...。一瞬、場が静まり返った。
長身の明らかに目立つ容姿の女性。タイガが先日目にした。ゆるいロングウェーブのブロンドの美しい女性。女装をしたカツラだ。
今日の服装はこの間とはうってかわってシルバーグレーのロングドレスだ。胸元が大きく開き、体にフィットした細い袖は手首まである。上半身はニット生地で体のラインを見事に表し、ウエストから下はミモレ丈のチュールスカートで細い足が余計に華奢に見えた。男だと知らなければ有名なモデルだと誰もが思う姿だ。みなカツラに見入っていた。
「タイガ」
カツラはやはり一番にタイガを見た。タイガは思春期のトラウマのため女性にはときめかないが、カツラの女装姿には狼狽えるほどときめいていた。なぜなら、この姿のカツラを激しく抱き、二人で熱く甘い夜をすごしたからだ。ブロンドのカツラが喘いでいる顔が脳裏に蘇る。薄化粧をし、なんとも艶かしく美しかった。
タイガが言葉につまっていると、カツラがそそくさとタイガの元に来た。履いているハイヒールがコツコツと鳴る。
「こんな仕打ち、ひどくない?」
カツラはタイガの腕に手を伸ばし女性たちにひどい目にあわされたと甘えるように言いつけた。
「すごく…。綺麗だよ」
男であるため美しいという言葉に嫌な気分はしないが女性が受けるほどの褒め言葉と思っていないカツラであったが、タイガの言葉は別格である。予期していなかったタイガの返答に騒いでいたカツラは急に大人しくなる。
「そうか?」
カツラにとって一番大切なのはタイガがどう思うかである。タイガがこの姿を気に入っているのなら、カツラとしては嫌だと騒ぐつもりはなかった。
ともだちにシェアしよう!

