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第251話 15-76

あれからカツラはタイガから離れない。女装しているから開き直っているのか、男女の恋人がするようにタイガに体を寄せ密着している。手はもちろん恋人繋ぎをしたままだ。 他の者たちはカツラの変わりようとあまりにもイチャつくので、目のやり場に困っていた。カツラとタイガは唇同士が触れ合いそうな距離で話す。 当の二人はというとカツラは全く気にしていない。カツラの目にはタイガしか映っていないようだ。タイガは少し周りの様子を気にしているようだが。 「タルトをたくさん作ったからみんな食べてね」 リリーが手作りタルトを皿にとりわけ配っていく。 「カツラ...。本当に女性にしかみえないわ。その…。なおさら…。そんな…、ねぇ…?」 なにかとタイガの肌に触れるカツラの行動にリリーが何か言おうとしたが、結局はゴニョゴニョと言葉をにごしただけだった。 「シラー、今度ポートまで行くんでしょ?」 カツラとタイガから無理やり意識をひきはがすためにデージーがシラーに話を振った。 「うん。仕事でね」 「ポートって。タイガ君の地元じゃないの」 聞き覚えのある地名にリリーがはっと思い出し言葉を繋ぐ。 「そうなの?ノースガーデンって会場で催されるウェディングセレモニーのプロモーションに行くことになっていて」 そういうことなら知っているのではとシラーがタイガに視線を向け話しかけた。 「それってチューバーベゴニアが催す?」 心当たりがあったタイガはシラーに尋ねた。 「そうよ。知っているの?」 「うちの会社の提携会社が参加するらしくて。俺も勉強のため携わるんだ」 「そうなのか?」 今やタイガの肩に寄りかかり黙って話を聞いていたカツラがすぐに反応する。 「うん」 携わるって...。まさか泊まりじゃないだろうな?ポートは離れてはいないが、プロモーション参加となると数日前から準備で忙しくなるのではとタイガの留守をカツラは危惧した。 「そうなんだ?なんて会社?」 そんなカツラの気持ちなど気にかけることもなくシラーがタイガに詳細を聞く。思わぬ縁に少し興奮しているようだ。 「たしか...カンパニュラウエディングだったかな。社長が最近力を入れている事業なんだ」 タイガの言葉に女性陣たちが反応する。 「それってシラーの勤める会社じゃない!」 タイガが大当たりをひいたようにダリアが目を輝かせて言った。 「え!」 「すごい偶然があるのね!」 タイガもシラーも驚いた。 「じゃぁ、今カツラが着ているのは…」 「そのプロモーションで出すドレスよ。素敵でしょ?」 改めてカツラを見ると男性にもかかわらず女性らしくドレスを見事に着こなしている。シラーが写真を撮りたいと言ったのもわかる気がした。ウェディングなので、白や明るい色のものもあるだろう。タイガは他のドレスを着たカツラも見たくなった。 カツラはじっと自分を見つめるタイガの瞳が少し濃さを増したことに気づいた。その目に見つめられると体が疼くのだ。 「カツラがモデルをするのは決定ね!旦那の会社が手がけるプロモーションなんだもん。断る理由がないわよ?」 カツラの女装を手掛けたベロニカがモデル起用は間違いないと太鼓判を押す。 「そうね。社長も喜ぶんじゃない?モデル代浮くし」 デージーも大賛成のようだ。女性たちの言い分にあり得ないとカツラが失笑しようとしたところでダリアが決定的な一言を発する。 「いっそタイガも相手役でモデルすればいいんじゃない?」 今に至るまでモデルを頼まれても断り続けてきたカツラであったが、タイガとのツーショットならとありかもと気持ちがかなり傾いた。 「ははは。どうかな」 矛先が自分にも向いたタイガは少し恥ずかしそうだ。 「社長には私から話してみるから」 タイガの叔父はフランクな人柄でどんな取引先との契約にも顔を出す。分け隔てのない人柄が好かれそれが良い結果として業績に表れている。シラーもこの件で近々社長であるタイガの叔父と顔を合わせる機会がある。まんざらでもないタイガの様子にシラーは任せてとばかりに微笑んだ。 その後はそれぞれ近況を話し会話が弾んだ。そして思い出にと写真を撮りあう。カツラとゼファーはリリーに言われるままに腕を組みツーショットを撮らされた。もちろんタイガに断りを入れて。 「ニゲラ、せっかくだから一緒に映ったら?」 「いや、俺は…」 「ちゃんと奥さんには男だって私が証明してあげるから」 デージーがそう言ってカツラとニゲラのツーショットを撮った。フェンネルは友人に自慢すると言って椅子に座った膝の上にカツラを横座りさせ写真を撮った。 仲間同士でわいわいやりながら写真撮影を楽しむカツラをタイガは遠巻きに見ていた。 「カツラは見た目派手だからね。アクセサリーみたいなもんよ」 まるでカツラを中心に華が咲いたようだ。人を惹きつけて止まない魅力的なカツラを心配そうに黙って見守るタイガにシラーが声をかけた。タイガが振り返るとベロニカもいた。タイガは大丈夫だと二人に愛想笑いをする。 「でもカツラはもうちょっと頑張った方がいいんじゃないかな」 シラーの意見は尊重しつつもベロニカが思うところありと言った感じで切り込んだ。 「何が?」 シラーがいったい何の話かと尋ねた。 「あいつ、だっさい下着履いてたのよ。Tバックぐらい履けっつーの」 ベロニカが吐いた言葉にタイガは飲みかけた酒を喉につまらせた。 「大丈夫?」 咳こむタイガにシラーが背中をさすってくれる。 「その方がタイガだって盛り上がるでしょ?悔しいけどスタイル抜群なんだからそれを生かさないと。せっかく女装しても脱いだらあれでは男も萎えるわよ」 自分は間違っていないとベロニカがまくし立てる。 「カツラの下着見たの?」 シラーはベロニカの告発に目を丸くしている。 「駄々こねるから無理やり脱がしてやったのよ。下着はサイズも合ってないし、じじいみたいなの。おまけに口は最悪に悪いし色気もクソもない」 カツラは今日は珍しく体のラインを拾わないサルエルパンツを履いていた。ぶかぶかの下着でも支障をきたさないものだ。ベロニカの鋭い指摘にタイガは冷や汗をかいた。 「ははは」 シラーは友人たちの強引なやり用に呆れて失笑した。 「でも、タイガ、あれはやりすぎよ?コンシーラーで隠すの大変だったんだから」 ベロニカがタイガにだけ聞こえるように耳元で囁いた。わけがわからないとタイガがベロニカの顔を見ていると、ベロニカが唇を尖らせた。タイガはハッとした。 まさか…。キスマークのこと?確かに今朝ここに来る前はカツラの胸元にはタイガがつけたキスマークがいくつもあった。それが今は綺麗に消えている。タイガが言葉を失っていると、ベロニカがフォローするように笑顔で付けくわえた。 「熱々でなによりだけど」 「タイガ、ハニー。一緒に撮ろう?」 カツラが最高にいい声でタイガに声をかけてきた。そのままタイガの肩に腕を回し、シラーやベロニカにも聞こえるような声でつぶやく。 「今夜も抱いてやるからな?」 一瞬カツラのセリフにタイガ、ベロニカがドキッとする。 「はいはい。じゃ、撮るわよ?」 シラーだけ、またいつものカツラの悪ふざけだと聞き流し携帯カメラを手にする。 2人並んで立ち、カツラがタイガの肩に頭を預ける。何度目かのシャッターでカツラがタイガの頬にちゅっとキスをした。タイガが驚いてカツラを見るとカツラが耳もとで囁く。 「今夜も抱けよ?」 再びカツラを見ると、タイガの大好きな優しい微笑みを浮かべていた。

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