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第252話 15-77

外は夕闇に包まれ星が輝き始めた。ゼファーの家からは灯りがもれ、心地よい音楽が流れている。 ほろ酔いになったそれぞれが曲に合わせダンスを楽しむ。リリーはカツラと二人、向かい合い踊っていた。リリーは息子のようにかわいがってきた長身のカツラの肩に腕を伸ばし、カツラはリリーの腰に軽く手を添えていた。 「こんなに賑やかなの久しぶり。ソロさんも来られたらよかったのに」 「またいつでもできるさ。俺とタイガ以外は地元にいるんだから」 声や言葉使いは男性だが、見た目はすっかり女性のカツラにリリーはすっかり見惚れていた。化粧をしたせいで美人度が何ランクもアップしたカツラの顔から目が離せない。美人は三日で飽きるというが、ここまでの美人ならきっと飽きないのではと思ってしまうほどだ。 「ほんとにもったいないわねぇ。こんなに美人なのに」 ゼファーの幼馴染であるカツラが女であったならと思わずにはいられないリリーは心の声が思わず出てしまった。 「またそれ?」 「カツラ、女になる気はないの?」 こんなに美しく着飾れるのだからそれもありなのではと、リリーは答えが分かっていながらつい質問してしまう。 「ないよ。あるわけない。これだって無理やりだから」 肩をすぼめながらカツラが言い切った。そんな姿でさえ今はとてもキュートで魅力的だ。 「カツラ、大丈夫?」 タイガが背後からカツラのウエストに両腕を回し声をかけてきた。タイガもほろ酔いのようだ。カツラが振り向くとタイガの顎を持ち彼に軽いディープキスをする。タイガは一瞬驚いていたがすぐにカツラのキスに応える。唇が離れると額を寄せ合い微笑み合う二人。 目の前で行われた夫婦の熱いやりとりに、リリーは顔が熱くなった。 「そこの二人!イチャつき禁止よ!」 「あっついねえ!」 久々に会ったカツラにほとんどの者が視線を奪われていた。しかも彼らが知っているカツラは人前でこんなことをしたことがなかった。カツラはいつもどこかしら冷めていて人と一線を引いていたからだ。驚きながらも今目の前で行われたカツラとタイガの熱いやり取りに野次を飛ばす。ソファーでまったりと酒を飲んでいたベロニカとフェンネルが戸惑うリリーを助けるように声をあげた。 「うるさいなぁ。悔しかったら早く結婚しろ」 背後からタイガに抱きしめられたままのカツラはそう言って振り返り、片手でタイガの頰を引き寄せ見せつけるように再びキスをした。今度は濃厚なディープキスだ。濡れた舌を絡め合いながら唇同士を吸い合う音が響く。 リリーはそそくさとその場を離れダイニングテーブルに行きグラスにミネラルウォーターを注ぐ。熱気を取るように一気にそれを飲みほした。 「おばさん、大丈夫?」 カツラの変化にすっかり慣れっこのシラーがリリーを心配し歩み寄る。 「あっ、うん…。ラブラブすぎて見ていられなくて。若い子はいいわね」 「ほんと。お酒のせいか周りお構いなし。ここから見ていたら男女のカップルにしか見えないし」 ワイングラスに口をつけながらシラーが二人を観察した感想を述べる。 「ソロさん、びっくりするんじゃないかしら?」 リリーは額にかいた汗を手の甲で拭った。 それから1時間間後、裏口のベルが鳴った。 「きっとソロさんだわ。開いてるわよー」 リリーは呼びかけながらドアを開ける。彼女の予想通り、ドアベルを鳴らしたのはソロだった。 「もりあがってるなぁ」 その場の様子を見てソロが朗らかに言った。 「カツラ…か?」 ソロはカツラの女装にすぐに気付いた。 「ソロ、おかえり。用事は無事すんだ?」 「ああ…、まぁな。驚いたな」 ソロは掛けていた眼鏡を外しマジマジとカツラを見る。 「このパーティーの余興さ。主役なのに」 この姿がタイガが気に入り受け入れられたからか、カツラはあっけらかんと話す。 「お前の母さんにそっくりだ。」 ソロの言葉を聞いて、二人の会話を聞いていた者たちははっとなった。それはカツラも同じだ。 「そう」 カツラは優しく微笑み静かに答えた。 「帰りますか?」 タイガがそっとカツラのそばに歩み寄りソロに尋ねる。 「いや…。せっかく来たから、ソフトドリンクでももらおうかな」 「そうこなくっちゃ。食べ物もまだあるから、遠慮なく」 リリーが大歓迎だと笑顔を浮かべた。 ソロはソファーに腰掛けグラスを手に楽しむ若者たちを見ていた。そんなソロのそばにリリーがそっと腰を下ろす。 「カツラはそんなにそっくりなの?」 「うん。カツラのほうが色白だが目はアイリスの眼差しだ。もう少し小柄だったがね。びっくりしたよ」 「そうなの?会ってみたかったな」 「きっと仲良くなれただろ。子供同士も仲がいいしな」 昔馴染みの友人たちと話すカツラを見ながらしみじみとソロがつぶやいた。 「ソロさん、アレ用意できた?」 ゼファーがソロの耳元で小さな声で尋ねる。 「ああ、ばっちりだ。そろそろ渡すか?」 「うん」

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