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第254話 15-79

自宅に帰り、カツラは先にシャワーを浴びた。女装から解放されすっきりとした気分でダイニングに行くと、ソロが1人で酒を飲んでいる。 「タイガは?」 「荷物の整理があるからと上に行ったぞ。花とキャンバスも持ってあがったようだ」 「そう。付き合おうか?」 カツラがソロの前にある酒を指差して尋ねた。 「今夜はそれなりに飲んだんだろ?明日に差し障ったら大変だ。早く休め」 「なぁんだ。せっかくその気だったのに」 「あ、カツラ」 ちょうど2階からタイガが降りてきた。タイガは2人の会話の邪魔をしてしまったのではと少し気まずそうだ。カツラはそんなタイガに微笑みかけた。 「タイガ、汗流してこいよ?」 「ソロさんは?」 「俺はまだチビチビ飲んでいるからいい。先行ってくれ」 「じゃ、遠慮なく…」 タイガがその場を離れる間際、またカツラと目があった。カツラは口だけでタイガに伝えた。「また後で」と。 シャワーを終え2階に上がるとカツラはまだ起きていた。 部屋には今日みんなからもらった花束の匂いが充満していた。それは今花瓶に生けられデスクに置かれている。タイガとカツラが描かれたキャンバスは壁にたてかけられていた。 「本当に素敵な絵だ」 タイガは改めて惚れ惚れとした様子で感想を述べる。カツラはベッドに座りソロが描いた2人の絵をじっと見つめていた。 「うん」 タイガはカツラの隣に腰を下ろした。 「ずっとこんな関係でいたい。何年たっても」 カツラはタイガにもたれぼそりと呟いた。 「うん。そうだな」 タイガももちろんカツラと同じ気持ちだ。タイガはカツラの肩を抱き寄せた。カツラのサラ髪が顎に触れる。今日も女装をし慣れない服と靴でカツラは疲れただろう。タイガはカツラを気遣った。 「もう寝ようか?」 「うん」 部屋の明かりを消し、ベッドサイドの明かりだけをともす。ここにきてからタイガにと用意された簡易ベッドは結局ほぼ使われなかった。今夜も2人はカツラのベッドで一緒に横になった。 「なぁタイガ」 タイガのほうに寝返りをうち、カツラがふいに口を開いた。 「ん?どうした?」 タイガもカツラのほうに体を向ける。 「カエデともこうして一緒に眠ったことあるんだよな?」 「え?それは…まぁ…」 「熟睡できた?」 「え?」 「できたんだ?そうだよなぁ。ずっと一緒だったんだし」 一瞬言い淀むタイガにカツラが1人結論づける。そして仰向けになり、ぼーっと天井を見つめた。 「え?どうした?急に?」 カツラの言葉を気にして少し身を起こしたタイガにカツラが視線だけを合わせた。 「俺は他人と眠るなんてまっぴらだった」 あまり自分のことを進んで語らないカツラがなにかを伝えようとしている。タイガはカツラが話そうとしていることに黙って耳を傾けた。 「一晩一緒にすごしても隣にいられると眠れない。ウトウトとはするけど、熟睡なんてできない。結局眠れずに寝不足になることが多かった。ゼフの家に泊まった時でさえあいつが隣にいるとだめなんだ。一人リビングのソファーで寝たりしてな」 カツラはいったい何を言おうとしているのか。タイガは黙ってカツラの話の先を待つ。カツラは再び視線を天井にむけ噛み締めるようにゆっくりと話し続ける。 「タイガ…。お前だけなんだ。隣りにいても俺が熟睡できるのは。俺は…俺は本当にお前しかだめなんだ。お前がいないと…」 薄明かりの中、カツラの瞳が輝いていた。瞳に涙を浮かべているのだ。タイガはカツラが言おうとしていることがわかった。自分はカツラにとって特別なのだとカツラ本人から言われたのだ。嬉しさのあまり胸が締め付けられそうになる。 「カツラ。大丈夫。俺は絶対にカツラから離れない。絶対だ」 タイガはカツラの手を握りしめながら正直な気持ちを伝えた。 「今日改めて昔を思い出して。昔の俺は救いようがなかった」 カツラは目を閉じ手の甲を瞼にあて言った。 「カツラ」 タイガはカツラの伸びた前髪を優しくかきあげた。なにも心配はいらないというように。 「俺にはタイガしかいない。タイガが一番大切なんだ」 カツラは手を顔から離し両手でタイガの手を握る。 「お前がいないと生きていけない...」 「うん」 「ごめん。俺、めちゃくちゃ重い奴だな」 言ってしまってからカツラは微笑んだ。とても恥ずかしそうに。 今夜は昼間から長い時間楽しんだ。そのため今日はカツラをゆっくり休ませなければとタイガは思っていた。しかし、こんなふうに愛の告白を受け「じゃ、おやすみ」とはできるはずがなかった。

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