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第262話 16-2

ホリーは悶々としていた。 最近同棲中の彼氏が研究発表が上手くいかず、何かとホリーに当たり散らしてくる。自分の後輩に先に手柄を取られたことがよほどショックだったのだろう。ようやく教授の見習い件手伝いから解放され独り立ちができると思っていた矢先のことだった。 そのためホリーは自宅に帰るのが憂鬱なのだ。店の仕事は楽しい。客と話しながら仕事をこなしていると、あっという間に時間は過ぎた。しかもここ数日はカツラが長期休暇を取っていたため、ホリーやシュロなどの古株メンバーはその穴埋めをするため出勤日数を普段より詰めて出ていた。 仕事、仕事と家を空けるホリーに良い顔をしない彼だったが、この時ばかりは一人になりたかったのか、小言をいうことはなかった。 「ふぅ...」 「ホリーさん、大丈夫ですか?」 最近ほぼ毎日店に顔を出しているホリーに気遣いセージが声をかけた。 「大丈夫。ありがとう。これ、運ばなくっちゃね」 疲れがたまっているせいか、最近体がだるい。 ホリーは厨房に届けられた食材の箱を持ちあげとようとしていた。先ほどから何度チャレンジしても全く持ち上げることができない。ここ最近の精神的な疲れがホリーの体力をおおいに奪っていた。しかもこんな日に限って男手が欲しいバカみたいに重い荷物ばかりだ。 「ホリーさん、男の人が来たら運んでもらいましょう?」 いつもならホリーもそうするのだが、今日の荷物は多かった。一つでも片付けないととても作業ができないほど場所をとっている。新しいメニューのためにたくさん荷物がくると店長が言っていたことを思い出す。ホリーはなだめるセージににこっと笑顔を向け重い荷物を再度持ち上げようとトライする。 「よいっしょっ...あっ!!」 荷物はホリーの腰のあたりまでようやく持ち上がったが、その瞬間軽いめまいを起こす。 やばいっ、倒れるとホリーは目を閉じる。しかしホリーが重い荷物と一緒に前に倒れ込みそうになったその瞬間、グイッと強い力で後ろに引っ張られた。手にした荷物の重さが手から離れる。背後からはよく知っている香りがした。 「っとっ!大丈夫か?」 ホリーを手助けしたのはカツラだった。タイミングよく出勤したらしい。ホリーはカツラに引っ張られカツラの胸に背中をもたれさせたまま。カツラはホリーの背後から荷物ごと抱きしめるような形になっていた。 「カツラ...」 振り替えるとすぐ目の前にカツラの顔があった。見慣れた顔だが、髪が伸びとても色っぽい。貧しい娘を救ってくれる中世時代の優しい騎士のように見える。 ホリーは不思議な気持ちだった。カツラの顔を見た瞬間、とても安心したのだ。体の力が一気に抜ける。 「ごめん、わたし...」 ホリーはカツラにもたれたまま膝から倒れそうになる。 「ホリー!」 ホリーの体重が遠慮なくかかり、カツラはホリーをなおさら強く抱きしめる格好になった。両手を口にあてたままことの成り行きを黙ってみていたセージも咄嗟に二人に歩み寄った。 「セージ、一瞬ホリーを頼む」 セージにホリーを預け、カツラがホリーから離れ荷物を置く。そしてさっと二人の元に戻りホリーの両ひざの下に腕を掛け軽々と抱き上げた。素早い慣れた身のこなしにセージは目を丸くしていた。 「ホリーはしばらくスタッフルームで休ませる。セージは仕事に取りかっかって。荷物は俺が運ぶから」 「あ...、はい」 意識があるのかないのか、ホリーは黙ってカツラに身をまかせたままだ。その姿は心を許した者に甘える恋人のようだった。 数十分後。 カツラが厨房に戻ってきた。 特に変わった様子はなく、カツラはホリーとセージが持ち上げるのに苦労した荷物を軽々と持ち上げ所定の場所に運んでいく。セージは一連の出来事からカツラに視線を奪われていた。 やっぱり男の人なんだ...。セージは胸に響く声を追い払い作業に集中した。

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