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第289話 番外編 旧友との再会
ひょんなことから、タイガは昔馴染みの顔と合わせることになった。
今手掛けているウェディング事業のミーティングでのこと。
数回顔を突き合わせ話し合いをしていると、ウェディングデザイナーの助手をしている女性の一人、ボリジィが自分と同世代だとわかり話が弾んだのだ。すると彼女がタイガの元同級生の恋人であることが発覚した。しかもその友人はタイガと同じ寮生で同室のトリスであった。彼はかつてタイガにツバキの妹、サクラを紹介した人物でもあるのだ。
大学までは頻繁に連絡を取り合っていたが、社会人になりお互い忙しくここ数年はすっかり疎遠になっていた。
ボリジィからトリスの名を聞いたとき、縁はあるものなのだとタイガは運命めいたものを感じた。
「タイガ、お前は相変わらずだな」
数年ぶりに再会したトリスも変わらず気さくなままで、髪型さえも当時と変わっていない。オレンジがかった金髪を短くかりあげワックスでしっかりとセットしている。人なつっこいヘーゼルの瞳は当時のまま少年のように輝いている。
「妙な縁もあるもんだなぁ」
タイガは当時を思い出ししみじみと呟く。まさかこうして会えるとは思っていなかった。
休日のある日、タイガはトリスとボリジィと3人でランチをとっていた。
数年ぶりの友人との会話はなんの憂いもなく弾み、時間はあっという間にすぎた。聞けば二人はこれから面白い店に行くのだと言う。タイガも気にいるはずだから一緒にどうかと誘われた。
家に帰ってもカツラは仕事のため暫く帰ってこない。タイガは二人の誘いにのることにした。
「いったいどんな店なんだ?」
「まぁ見てのお楽しみだ」
トリスは簡単にタイガに教えるつもりはないようだ。彼の顔のにやつきがやけに気にかかるのだ。
「タイガは恋人いるんでしょ?」
困り果てるタイガにボリジィが助け舟をだす。
タイガはその外見から女性受けがいい。ボリジィの周りでも取引先に感じのいいイケメンがいるともっぱらの噂だった。しかしこのイケメン、鈍感なのかどんな女性の誘いにもかからなかった。そのためきっと相手がいるのだと勝手に結論づけられていた。中には浮気をしないところがなおさらいいと諦めない強者もいるぐらいだ。
「うん。ええと…。結婚しているんだ」
タイガは報告する機会をなくしていた婚姻の事実を今打ち明けた。こういうことに慣れていないタイガは少し恥ずかしく、声が小さくなる。
「え?!」
「そうなの?!」
「まさか…。やっぱりカエデか?」
「あ、いや。違うんだ」
「別れたのか?で、どっちだ?」
タイガのことをよく知っているトリスはカエデと別れたと知って今の相手の性別がどちらなのか尋ねてきた。タイガのことをまだよく知らないボリジィは二人のやりとりにポカンとしている。
「俺がだめなのは知っているだろ。それは変わらないよ」
「ああ…、なるほどな。しかし、意外だな。お前ら、絶対くっつくと思っていたのに」
カエデとの別れに驚きつつも、タイガの本質は変わっていないことにトリスはそれもそうかと納得する。
「なんなの、いったい?」
「ああ?タイガな。こいつは女がだめなんだ」
「えええ!?嘘でしょ!もったいないっ!!」
「もったいないとはなんだ?」
ボリジィの言葉に驚いたトリスとタイガは職場にタイガ狙いの女性たちが大勢いると聞かされた。
「タイガはいつもそうなんだ。でもカエデに敵う女なんてそうそういないぜ?マジでかわいかったからな。あ、っと。カエデじゃなかったんだっけ??どんな奴?」
トリスの言い分にボリジィは女を馬鹿にしてと不満げだ。女より綺麗な男なんているはずがないと。男はやはり男なのだ。性転換手術をしている者でさえ骨格や声はごまかせない。
「うん…。すごく綺麗な人だよ」
タイガは視線を落とし囁くように答えた。カツラのことを他人に、特にカエデとのことを知っている友人に話すことがどうにも恥ずかしい。
カツラを知らない二人がもし彼に出会ったら。タイガがカツラと初めて出会ったときのように言葉を失うのは容易に想像できた。カツラの姿を思い浮かべるとタイガは顔がほてってきた。誰をも虜にするカツラに自分は夢中なのだ。
「なんだよ、お前。のろけかぁ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら冷やかすトリスに女性のボリジィは冷めた目だ。ボリジィは女の自分と付き合っているトリスが男のカエデをベタ褒めしたことが気に入らないようだ。
ボリジィはこの話に否定的な気持ちがあるのかとても気まずい空気が流れる。話の指揮をとっているトリスは全く気づいていないようだが。タイガは早くこの話題が終わって欲しかった。
すると、トリスがようやく違う方向に話の舵をきった。
「いつか会わせろよな?じゃ、タイガも楽しめそうだな」
「楽しめるって?」
「カップルで行くともりあがるっていうか。相手がそういうのに嫌悪感がない人ならね」
機嫌がなおったボリジィがタイガに説明する。二人は曖昧な言葉でごまかし確信的なことは言おうとしなかった。
いったい自分はどこに連れて行かれるのかとタイガは少し不安を感じ始めていた。
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