289 / 312
第290話 番外編 ゲームの世界で
二人に連れてこられた店はゲームやフィギュア、文房具を扱うホビーショップのようなところだった。二階建ての店の一階部分は様々なキャラクターのイラストが飾られている。休日のためか推しのキャラグッズを購入しようと訪れた客たちで賑わっていた。
二人が言っていたのはゲームことだったのかとタイガは身構えた自分が馬鹿みたいに思えた。
「タイガ、お前ゲームはどうだ?」
「たまにするよ」
「相方は?」
タイガはあまりゲームにはまることはないが、カツラはやり始めるとなかなか抜け出せないことがある。少年のように目を輝かせてゲームに夢中になっているカツラの横顔を思い出す。ゲームにはまりすぎたカツラに構ってもらえないタイガは毎回カツラにちょっかいをだし、そのままセックスに持ち込んでいる。最終的に性的な快感に抗えないカツラはタイガとのセックスに集中することになるのだが。
「おーい?聞いてるか?」
カツラとの愛の営みに脳内で耽っていたタイガは視線をぼーっとさせたまま固まってしまっていた。
「え?あ、ごめん。なんだっけ?」
「パートナーはゲーム好き?」
ボリジィも重ねるように尋ねる。今度はタイガは即答する。
「嫌いじゃないと思うよ」
「ふーん」
ボリジィの返事にはなにか妙な含み笑いがある。いったいなにを企んでいるのだろうか。
「じゃ、行くか?」
トリスの言葉が合図のように恋人の二人は意味深なアイコンタクトを交わす。疑問符ばかりのタイガはそのまま二人について二階に上がった。
二階は一階とは全く雰囲気が異なっていた。薄暗い照明、ここもゲームを扱っているようだが、その内容が違うのかキャラクターのビジュアルが違う。はっきり言うとキャラクターの肌の露出が多いのだ。女性のキャラクターはほぼ裸の者までいる。確認するとアダルト専門と記載されていた。
こういった店に来たことがないタイガはキョロキョロと周りを見渡していた。女性、いかにもオタクな感じの男性、カップルなど客層は様々だ。
「タイガ、こういうゲームはしないのか?」
明らかにカルチャーショックを受けているタイガにトリスが尋ねた。
「こういうゲームって?」
「ある意味性欲を満たしてくれるゲームよ。ご褒美だとか、スキルアップするときにちょっとだけエッチなシーンがあるの。ま、がっつりなものもあるけど。内容はピンキリね」
なんの抵抗もなくさらっと答える女性のボリジィにタイガはなんと答えたらいいのか戸惑ってしまう。
「えーっとぉ…」
トリスとボリジィはこの類のゲームをしてセックスを楽しんでいるのだろうか。タイガは理解がなかなか追いつかなかった。タイガにもパートナーと一緒にこういうゲームをするべきだといいたいのだろうか。
「こっちこいよ、タイガ」
トリスおすすめのゲームソフトでも勧められるのかと思っていたら、連れてこられたスペースはコスプレスペースだった。
様々なゲームの登場人物の衣装が飾られている。彩りの衣装は華やかで綺麗だが、全てが肌の露出の多いものだった。
「これね、この間買ったの」
ボリジィが笑顔でタイガに見せたのは若草色の衣装だった。他のものに比べて露出はそこまでひどくはない。プライスカードの下にキャラクター説明がある。勇者ラークスパーのニンフの一人。森林に棲みラークスパーにエナジーを与える。
「な?なかなか面白いだろ?」
「ということはトリスが勇者?」
「こういうのはさ、男が着てもな」
確かに、男ものの衣装は人気がないようであまり売れていない。
二人はこの店によく来るようでゲームの種類やキャラクターに詳しかった。聞けばデザイナー志望のボリジィが刺激になればと興味本意で覗いた店なのだそうだ。面白半分で色鮮やかな衣装に身を包むと非日常の気分を味わえる。恋人のトリスと共にどハマりしたとのことだ。
タイガが感心して他の衣装に見入っているとボリジィがタイガの腕を引っ張った。
「すごく綺麗な人なんでしょ?これなんてどう?」
ボリジィがタイガに見せたのは白い衣装だった。
人気があるのか見本にとマネキンが身につけている。その衣装はかなり際どい代物だった。
まず、上半身は両二の腕についているビジューがあしらわれたチェーンベルト以外裸である。ウエストには腕と同じ細いチェーンベルト。
下半身はそのチェーンベルトの下からシースルーの薄い布が前と後ろに垂れ下がっている。そのため両足は足の付け根から外側は丸見えだ。その下はというと簡単にいえばぼぼ裸に見える紐パンなのだ。そして足首にもビジューのアンクレット。
タイガが目を見開いているとトリスが身を乗り出し同じく見入った。
「ひぇー。これはエロいな!」
思わずトリスからも声がある。恋人の太鼓判をもらいボリジィも得意気だ。
「ね?いいでしょう?」
「ラークスパーの欲望の一つ、性欲の神ルピナス。基本的に容姿は男性。淫魔の力を持ち目にした者を虜にする能力を持つ。交わり後は攻撃力が大幅に上がるが、虜になり魂を掴まれるとエナジーが激減してしまう。エナミーに対してルピナスの力を行使できるとエナミーの自由を奪うことができる。しかし使いすぎるとエナジーが減る。女性に対しては男装バージョン、男性に対しては女装バージョンで現れる」
キャラクター説明をトリスが読み上げた。
「なるほどね。こいつ人気あるやつじゃん」
有名なキャラクターなのかトリスが一人納得する。
「こっちも格好いいんだけどね」
ボリジィが手にして持ってきたのは黒い衣装だ。
男性用の衣装だとわかる。人型の硬紙にかけられた衣装にはキャラクターが描かれた小さなイラストがそえらていた。
よく見るとこちらもルピナスだ。
しかしこちらは全身黒装束。肌はほとんど露出していない。
詰襟に長袖。軍服のようなデザインだが、上着の裾は長く金色の刺繍があしらわれている。きっちりと全身を包みこんだ姿は凛々しく美しい。しかし顔だちは繊細で、どこかしらカツラににていた。瞳は黄金色で長髪の黒髪。絹のような髪は後ろに高く一つにゆわれている。額には赤い額飾り。
タイガは白い衣装のそばにある、人型の硬紙を手にとった。
まさにマネキンが身につけているルピナスの女装版だ。イラストに注視する。キャラクターは露出度の高い白装束を身につけていた。透き通るような白い肌、女性のようにくびれのあるウエスト、まっすぐ伸びた細く長い足。男装と異なり長い髪はオールバックにあげられ後ろに垂れ流されている。額には華奢な水晶の額飾り。とても妖艶で美しい。同一人物だが黒と白の装束でここまで雰囲気が異なるとは。タイガは見入ってしまった。そんなタイガにトリスが肩を組み感想を聞く。
「気に入ったのか?」
「え?あ、いや…」
タイガは一瞬だが心を奪われてしまったことを隠すようにしどろもどろになる。
「このキャラは主人公殺しのキャラと言われているの」
「主人公殺し?」
「説明にもあったでしょ?はまりすぎると死んじゃうのよ」
意味がよくわかっていないタイガにボリジィが畳み掛ける。
「エッチ見たくて何度もするとエナジー吸い取られちゃうってこと!」
ともだちにシェアしよう!

