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第292話 19-1

フヨウとの一件はタイガにとって意外なものだった。性懲りもなくカツラへの想いを引きずっていると思っていたら…。 それよりも店での詳細を聞いたタイガは大いに憤慨したが。 「男に襲われかけた上にフヨウに裸体をさらすなんて!」 「落ち着けよ、タイガ。勝算がないことはしないって。警察も呼んだ後だろ」 「しかもトベラの知り合いって」 この辺りの経緯はカエデがからんでいて以前なんとなく耳にしたことはある。すんだことだがモヤモヤした気持ちを払拭できないタイガはゴニョゴニョと何か言いだげである。 「そんなことより、フヨウ。ほんとに大丈夫なのか?」 それはフヨウの体調とカツラへの未練に関して出た言葉である。 「ああ見えて二人の絆は硬い。相手のユーリはしっかり者だし、ぬけたあいつにはお似合いだ。フヨウもはっきりと自覚したみたいだからな」 自分の献身的な作戦で二人の仲は確固たるものとなった。自身満々にそう話すカツラは得意げであり、かわいかった。 タイガは職場のデスクにむかいながら今朝のやりとりを思い出していた。ついニヤケてしまっていたらしい。となりに座る先輩社員に何かいいことでもあったのかとつっこまれてしまった。 タイガは頭を会社モードに切り替える。 働き盛りのタイガは今大きな事案を二つ抱えている。 一つがシラーと携わるウエディング事業。もう一つは丘の上のレストラン絡みのものだ。 丘の上のレストランの成功を受け、オーナーがもう一軒レストランを手掛けようとしている。なにもかもこだわりたいオーナーは同業者の調査に勤しんでいた。 中でも口コミがいい店に自ら赴き、雰囲気、サービスや料理の内容を確認し、目ぼしい店を数軒ピックアップし、タイガの会社にレポートをよこしたのだ。 オーナーの熱意に応えるようにと社長である叔父からタイガに白羽の矢が放たれた。大変な仕事だがやりがいはある。 そんなわけでタイガはオーナーから勧められた店数軒を訪れることになった。 なるほど、たしかにどの店も評判が良いのは頷けた。オーナーがタイガに提示したのは八軒あったが、タイガはその中からより心惹かれるものを三軒までにしぼった。もちろん舌の肥えた同僚知人にも同伴を依頼し、偏ることがないよう彼らの意見も参考にしながら。 「共同経営?」 後日、社長室に呼び出されたタイガは叔父から今後の方針を聞かされた。 「そうだ。他店の経営者たちと顔を合わせる機会があってな。そこで話が盛り上がったらしい。お前が絞った三店舗の経営者たちだ」 タイガに任せた案件が思わぬ方向に動きだしたと叔父は詳細を説明した。 「少し大変かもしれないが、お前には双方のパイプ役になってほしい。成功すれば莫大な利益が生まれるからどの店も契約を望んでいるだろうが」 「見極めて決断しないといけないということか」 「その通りだ」 責任重大な業務である。プレッシャーも相当だがタイガは必ず成功させてみせると決意する。やり方は任せると叔父から依頼されたタイガは心よくその仕事を引き受けた。 「そういうわけだから、カツラにも一緒に行ってほしいんだ。料理や酒については俺よりくわしいだろう?」 帰宅したタイガは協力者の一人としてまずカツラに話をもちかけた。 「それは構わないけど。オーナーも勝負にでたな」 「ま、あのレストランの成功があればね」 丘の上のレストランはレストランだけではなく今ではウエディングセレモニーの場としても人気を博していた。 美しい夜景、神殿のような荘厳な建物、何をとってもロマンティックな上に料理と酒も最高となれば訪れる人が絶えないのも納得できた。 平日の空いた時間では料理やブリザードフラワーなどの教室も開いているらしい。仕事をリタイアした裕福な人たちの憩いの場としても重宝されている。 「さて。どの店から行くんだ?」 カツラはタイガの考えを支持してくれるようだ。最初に訪れる店の決定権をタイガに委ねた。 「そうだな…」 カツラへの説明のために各店舗についての情報をまとめたパンフレットを目の前に置いていた。タイガは三つのなかでも特に心惹かれる店は一番最後に訪れることにした。残る二つのうちの一つを手に取った。 「ここにしよう」

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