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第293話 19-2

タイガが最初に訪れたのは異国情緒あふれるマリーンタウンだった。 目的のレストランはレンガ倉庫が改装されたものだ。大きなレンガ倉庫がニ棟並ぶ様は存在感があった。 倉庫はもともとここにあったもなので、いまや商業施設として賑わうこの場所にも違和感はない。交通アクセスもよいので、多くの人が訪れる人気のスポットだ。 「こっちが肉メイン、こっちはブレッドとスイーツメインなんだ。ためしにランチをやったらそれが大当たりしたらしくて。いまでは美味しいブレッドとスイーツが食べられるレストランってことになっている」 タイガはカツラに説明しながらレンガのレストランを目指す。カツラは辺りを見回し、あとで波止場まで行こうと提案してきた。カツラはレストラン云々よりタイガとこうして出かけることを楽しみたいようだ。普段生活時間が真逆の二人がゆっくりと外出することは滅多にない。タイガも賛成でカツラの手をとり、ぎゅっと握った。 「少し歩けば異国の庭園もあるんだ。食後は思い切り散策しよう」 「うん」 二人で手を取り合い黒いガラス扉をあける。店内はジャズが流れていて一昔前に迷い込んだようだ。薄暗いが、壁つたいに置かれた一つ一つのテーブルにはモダンな丸い傘型のライトが天井から贅沢にあつらえられていて、食事をするには申し分ない灯りである。 案内係の店員がタイガたちを壁際の奥の席へと導く。テーブルの配置はゆったりとしていて広い店内を惜しみなく使っている。そばのテーブルと離れているためプライベートも確保できる。 席につき周りに目をやると異性同性問わずカップルが多かった。 こういうところもタイガが気に入っている点である。今の時代に沿ったコンセプトを有している。聞けばSNSで積極的に発信しているとのことだった。 「いらっしゃいませ」 今日は何を食べようかと興味深くメニューに目を通していると、オーダー担当者が声をかけた。しかし聞き慣れた声にタイガははっとし顔をあげた。 「こんにちは。今日は連れがいるのね」 タイガに対して親しげな声の女性にカツラもパッと顔をあげた。 目の前には艶のあるブラウンの髪を綺麗にシニヨンにまとめた長身の女性がいた。髪と同じ色をした瞳は優しげに微笑みを讃えタイガを見ていた。 白いワイシャツは第二ボタンまで開けられ丸みのある胸元が僅かに見えなんともいえない色気があった。 黒いパンツスタイルだが、モデルにもひけをとらないほどのスタイルで人の視線を惹きつけるには充分な容姿だ。カツラの警笛が響く。 「うん。意見を聞こうと思って」 カツラのわずかな変化に気づくこともなくタイガがカツラに紹介する。 「カツラ、彼女はベラ。この店の責任者なんだ。しかも大学で同じゼミで」 「はじめまして。数年ぶりに再会したけど、タイガは全く変わっていなくて驚いた。同窓会にも不参加なんだもん。こんな縁があるなんてね」 心地よい声色で話すベラはさりげなくタイガの肩に自分の手をおく。女嫌いのタイガであるが、ベラに対するハードルは低いようだ。同窓会のような場は苦手でなどと呑気に答えている。 「へえ、そうなんだ。こちらこそはじめまして。パートナーのカツラです」 カツラは店でするような笑みを浮かべ自己紹介をする。そのままテーブルに置かれたタイガの手に自分の手を重ねた。 「ダーリン、何にする?決まった?」 「えっ!?」 カツラに甘えた声で呼ばれ手をとられたタイガは一瞬キョトンとする。カツラがこのような態度をとることは今までほぼなかったからだ。 しかし触れられた手からカツラの体温を感じ心地良い。無意識にそっと手を握り返し、カツラの顔を見、笑顔を浮かべる。 「そうだなぁ…」 カツラもはにかんだ笑顔をむける。 「決まったらボタンを押して。では、失礼します」 ベラはカツラの牽制に気づいたのか店員らしい対応をとりその場を離れた。 カツラはタイガがメニュー表に目を落とした隙にベラの後ろ姿に視線を沿わせた。

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