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第295話 19-4
カツラが怪訝に思っていると、ベラが隣の女性を紹介する。
「タイガのパートナーのカツラさん。彼女はロゼール。私のパートナーなの」
「は?」
カツラはいったいベラがなにをしようとしているのか理解できなかった。今紹介された女性も今回の件に関わっているということか。彼女が合流することはタイガから聞いていなかった。
ロゼールなる女性はベラとは異なり中性的な雰囲気だ。ショートカットにセンター分けの長めの前髪。切れ長の黒い瞳に黒い髪。ベラと同じくらいの背丈のため遠目には男女のカップルに見えなくもない。
「実は折言って耳に入れておきたいことがあって」
「なに?」
タイガへのスキンシップが多いベラにカツラは悪い印象しかない。いまだに警戒心を緩めないカツラのことなど気にすることもなく二人はアイコンタクトをとりながら席についた。
「私たち、体外受精を希望しているの。あなたもそうでしょう?」
何言っているんだ、この女。
カツラはベラの口から出される言葉がひどく場違いに思え、返答する機会を失ってしまった。
「ロゼールのお母さんに孫の顔を早くみせてあげたくて。余命宣告されているの。専門の機関は手続きとかいろいろと大変でしょう?なにせ時間がないものだから。だからタイガの精子をつかわせてほしいの」
なんだって!?
ベラが放った最後の一言にカツラの理性が吹っ飛ぶ。そんなカツラの内心に全く気付かずベラは話し続ける。
「卵子はロゼールのものを使う予定よ。あなたたちが希望するときは、喜んでわたしの卵子を提供するわ」
「あんた、いいかげんにしろよ?だまって聞いてりゃ、体外受精だって?俺はここに仕事の話をしに来たんだ。なんだってそんな意味不明な話を聞かされなきゃならない?」
カツラはこれほど頭にきたのは久しぶりだった。いや、初めてかもしれない。タイガの精子って!!あれは、あれは…。あれは俺のものだ!
カツラは今まで経験したことのない独占欲が胸の奥からどろどろと湧き上がる。あまりの怒りに呼吸が早くなる。
そんなカツラの様子にロゼールがベラに囁く。「聞いてないんじゃない?」と。カツラの耳にもその言葉が届いた。カツラの鼓動が早くなる。
「タイガはまんざらでもなかったの。ただパートナーのあなたの意見を尊重したいって」
ベラの言葉にカツラは頭がガンガンしてきた。自分の知らないところで話が勝手にすすんでいるのか?これはとてもナーバスな問題だ。
「タイガと…。この件を話したのか?」
「今回の事案でタイガとはちょくちょく会っているわ。昔なじみだし、そのままランチをしたり。ちょうどそのときにロゼールも紹介したの。タイガはわたしの憧れの存在で。あ、でも恋愛とかじゃないから。わたしは男性が苦手だから。昔は全然垢抜けていなくて暗くって。よく除け者にされていたのよね。そんなときにタイガが声をかけてくれて」
相変わらずベラが一人話し続けているがカツラの耳にはもはや聞こえていなかった。
カツラはふらっと立ち上がり呼び止める二人を無視してその場をあとにした。
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