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第304話 番外編3 トリス、衝撃をうける
紹介されたカツラなる人物の外見と声とのギャップにトリスとボリジィは呆然としている。カツラが説明する。
「これはタイガが言い出したことで」
カツラは髪に指を絡ませながらタイガを見た。あまりの衝撃にトリスもボリジィもまだ言葉を失ったままだ。
「驚かせようと思って。もうわかったと思うけど、カツラは男だ。ボリジィは一緒に仕事をすることになるからこの際ちょうどいいと思って」
はははと微笑みながら説明するタイガの言葉がいまいちトリスは理解できない。
「えっ?まさかブライダルのモデル?」
「そう。カツラにはこの姿でお願いしているんだ」
ブライダルイベントの筆頭モデルが男性であることはボリジィの耳にも入っていた。まさかタイガのパートナーであったとは。タイガのパートナーと紹介された男はトランスジェンダーではなかったはずだ。ただ単に女装しているだけでこんなにも美しいとは。ボリジィは賞賛の目でカツラを見た。
「見られすぎて穴が空きそうだ。勘弁してくれ」
眉根を寄せてカツラがつぶやいた。さすがに出会ってからずっと自分に注目する視線に嫌気がさしてきたようだ。
「あ、ごめんなさい。すごく綺麗だから」
二人のやりとりにタイガはまんざらでもないような笑みを浮かべている。
女であろうが男であろうが美しいことにかわりはない。トリスはカエデを初めて見たとき以上の衝撃を受けていた。
「静かだな?トリス?」
トリスの内心の動揺を悟っているのか、カツラがトリスに視線をむける。その目で見つめられるとすべて見透かされているような気分になった。トリスは金縛りにあったように言葉を発することもできなかった。
こいつは男だ!なにを意識する必要がある?それにしても綺麗な男だ。カエデよりヤバいだろ。
トリスはかつてカエデの存在に騒いでいた同級生たちを思い出していた。
カエデの姿に当時、驚きはしたがここまで心をざわつかせることはなかった。カツラが男であると分からなかったら一目惚れの沼にはまりこんでいただろう。
「トリス?大丈夫か?」
トリスのあからさまな動揺にタイガが声をかけた。
「え?」
「初見ではみんな大体驚くんだよ。本人は自覚ないんだろうけど」
「人をバケモノみたいに言うな」
タイガの説明にカツラがつっこんだ。
最初こそ驚いたトリスだったが、カツラの話し方、所作は男そのものだった。しかもあっけらかんと話す様は好感を抱かせた。なんなんだこいつはと拍子抜けすると同時にその外見の美しさには目を奪われたままだった。
ボリジィはこのレストランについてタイガに尋ねていた。
「今度うちが手がける候補の一つの店なんだ。
二人の感想も聞きたくて」
「かなりこだわりが強い店よね。でもいいと思うわ」
「別室で自分たちで食事を作ることもできるんだ。もちろん材料は店が準備してくれている。俺たちも一杯飲んだらそっちに移る予定だ」
カツラもこのレストランのあらましを説明する。
ボリジィが「ほんとに?」とタイガに確認しているとカツラが手を挙げ店員を呼ぶ。カツラは聞き慣れない酒の名をさっと伝え付き添いの料理も伝えた。その姿は様になっていてトリスはまたも視線を奪われてしまった。
「いったいどんなお酒を頼んだの?」
「まぁきてのお楽しみ。後悔はさせないから」
カツラが頼んだ酒は「ラズリバルザム」という薬草酒だった。それをまた異なる国のライスリカーで割るという方法だ。
二種類の酒のボトルを店員から受け取ったカツラは慣れた様子でグラスに酒を注いでいく。白くにごったライスリカーに瑠璃色の美しい薬草酒が混ざる。薬草だが漢方のような匂いはせずフルーティなさわやかな甘い匂いがする。カツラによると薬草とはいっても青い果実も含まれるのだそうだ。
「いい匂い」
ボリジィはカツラの酒の講釈ともてなす様子にすっかり虜にされてしまったようだ。たしかに人を魅力する力は抜群だ。トリスももっとカツラの話しを聞きたいと思った。
「俺たちの出会いに」
カツラが乾杯の音頭をとる。
「乾杯」
それぞれ声をかけグラスを合わせ酒を口に運んだ。
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