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第305話 番外編4 トリス、再び衝撃を受ける
正面から見ると平面的だが、この店は奥行きが広く、トリスたちは今奥に続く白い回廊を歩いていた。タイガの好みで今日はこの後プライベートルームでバーベキューをすることになっている。
意匠をこらした回廊はふんだんに自然が取り込まれ非日常的な気分にさせる。こちら側には大きな湖もあり湖に沿うようにプライベートルームが作られていた。
プライベートルームはレストランと同じく開放的な作りだ。大きなガラス扉、その向こうには湖の景色を楽しめる広いテラス、内部には座り心地が良さそうな低いソファにローテーブルがある。キッチンスペースとレストルームもあり設備は充実している。
「まるでホテルだな」
ラズリバルザムですっかりほろ酔いのトリスは満足気だ。聞けば宿泊できるルームもあるようだ。
「テラスにバーベキューの用意がある。食材は冷蔵庫にあるから」
タイガはトリスとボリジィに室内を案内し、用意された食材を見せた。旬の野菜、ブランドものの肉に魚介類など贅沢な食材に二人は歓喜の声をあげた。
全員で協力しながらバーベキューの支度をする。酒の力もあり、肉が焼き上がる頃にはカツラにあてられたトリスも普段の調子を取り戻しすっかり打ち解けていた。
「カツラは?」
鼻歌まじりに食材を焼いていたボリジィにタイガが尋ねた。
「さっきまでキッチンスペースにいたけど?」
トリスもボリジィもいい感じに空腹で食欲をそそる匂いにカツラへの意識はすっかりそれていた。言われてみればカツラの姿が見当たらない。
タイガは慌ててテラスから室内に戻りキッチンにいく。そんなタイガを横目にカエデの時と同じく相手にぞっこんだなとトリスは当時を懐かしく思った。タイガは相手に尽くすタイプのようだ。
とはいってもパートナーがカエデやカツラのように他人に感銘を与える者ならば心配になるのは仕方のないことのかもしれないと思った。
「そろそろまた乾杯しようか?」
数分後、タイガが準備に勤しむトリスとボリジィに声をかけた。タイガの声にトリスとボリジィが振り向いた。二人はタイガの隣に立つ長身の男性、カツラに見入ってしまった。新たな訪問者かと一瞬疑ってしまった程だ。
先程までブロンドの長髪だったカツラは黒髪の短髪になっていた。艶のある絹のような黒髪。そのせいで透けるような白い肌は陶器のように余計に艶やかに見えた。コンラストで瞳の翠も一層輝いて見えるのだ。
女性っぽく見えていた体の曲線も長いウィッグをとり短髪になっただけで不思議と男性の体躯にみえる。男性のわりに華奢な印象のせいか整った顔立ちと相待って中性的な魅力が溢れていた。トリスは何故かこの姿に軽いデジャヴを感じた。どこかで会ったか?
同じく男装のカツラにまた衝撃を受けたトリスであったが、今回は回復が早かった。なんとなくとなりのボリジィを見ると、ぽぉっと頬を染めているボリジィに気付く。トリスは「おいっ!」とボリジィの耳元で呼びかけた。
「え?あ…。髪、地毛じゃなかったのね」
浮ついた気持ちを取り繕うようにボリジィがつぶやきそのまま俯き皿を並べ始めた。まるで恋に落ちた娘のようだ。
「ま…。改めてっていうのも変だけど。こっちが普段のカツラ」
「紹介どうも。さぁ、食うか」
タイガに再度紹介されたカツラであったが、自分のことはあっさりと流しグラスを手にとった。それぞれ乾杯と声を掛け合い喉を潤す。カツラはボリジィとグラスを合わせるときに「改めてよろしく」と囁いた。ボリジィはより頬を染め「こちらこそ」と小さな声で返事をした。
トリスはカツラなる人物を観察する。女の扱いには慣れている。男でここまで美しい者はそういない。そのためか異性に与える印象はすさまじいようだ。残念ながらカツラは既婚者だ。しかもトリスの友人タイガのパートナーである。ボリジィとおかしなことにはならないと確信はあったが、トリスはなぜかこのカツラいう男に興味をそそられた。
美しい自然の景色に包まれ、最高の食材を使っての食事は楽しく、時間はあっという間にすぎていく。
そろそろ夕闇に染まってきた。トリスは一人、フェアリーテイルの世界のような景色をテラスから眺めていた。すると、となりに人の気配がした。ボリジィかと思い黙っていると、空になっていた手にしたグラスに酒が注がれた。珍しく気がきくと隣をみると同じく自分のグラスに酒を注いでいるカツラがいた。
「トリスはずっとタイガと同室だったのか?」
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