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第308話 19-11

今日カツラと向かうのはいよいよタイガがイチオシのレストランである。 タイガがこのレストランに惹かれたのはメニューやサービスもさることながら、経営者の人柄に感銘を受けたからだ。 そのレストランは夫婦二人で経営されている。 夫は元建築家、妻は元医者であるという。 まだまだ働き盛りの二人であるが、お互い食に関するこだわりが強いため、検討と対策をとことん繰り返し自分たちのレストランオープンにこぎつけたとのことだった。開店して三年足らずの店だが今では予約が取ることが難しい店の一つとなっている。 その理由の一つが家庭的な雰囲気ながらも一流のシェフが作るレベルの高い料理。そして客一人ずつに対するもてなしであろうとタイガは分析していた。特にこのもてなしが群を抜いているのだ。 元建築家のオーナーは、毎夜一組ずつのテーブルに回り、挨拶とちょっとした話をするのが日課である。一度来た客は忘れないと豪語するほど彼の記憶力はすばらしい。 実はその日のうちに忘れぬように、日記ならぬ記録帳を彼はつけているのだ。しかも客一人ずつの似顔絵とともに。 タイガはほんとは内緒なんだよと彼からその記録帳をみせてもらった。芸大出身なのではと思うくらい繊細なデッサンでこの多才で人としても魅力的なオーナーにタイガは強烈に惹きつけられたのだ。 人なつっこく謙虚で努力家。こんな人と一緒に仕事をすれば楽しいのではと思わせる人物なのである。 件のレストランは彼の人間味が満載に出ていると思わせるものなのだ。 「タイガ、なんだか嬉しそうじゃないか?」 レストランへの道すがら、なにやら機嫌がいいタイガを不思議に思いカツラはよほどうまい料理が食えるのかと推測する。 「オーナーがね、とても魅力的な人なんだ。年はフジキさんぐらいかな」 「へえ。アニキみたいな人なんだ?」 「はははっ、まあそうかな」 タイガも一人っ子である。カツラとは異なり兄と慕える人が身近にいるのは羨ましい環境だ。 目的のレストランは住宅地の奥まった小高い丘にあった。ぎっしりと隙間なくつまった木造の屋根にガラス張りの建物。所々レンガが使われ、自然感が溢れている。ガラス張りのため、店内が見渡せた。昼時のためか満席に近い。 「なかなかおしゃれじゃないか。このあたりの風景と合っているな」 ここは住宅地だが、ほどよく自然がのこっている。自然と共生する新興住宅地と国がモデルにかがけた地域なのだ。そのため、整備された花壇や並木通りなどあるが、やり過ぎ感がない。訪れる人の多くが住みたいと思う場所に仕上がっていた。 「出費はかかったと思うけど、いい立地だと思うよ。料理も最高だから」 二人で店内に入る。木の香りが溢れフィーリング効果もばっちりなようだ。 白いティシャツ、黒いパンツに黒いサロンエプロンを身につけたウェイターがタイガに親しげに声をかける。打ち合わせのため何度か訪れているタイガとはすでに顔見知りのようだ。 奥の予約席へと案内され、木製の椅子に腰をかける。

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