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第310話 19-13

「カツラ、どうだった?」 会計を済ませ店を出たところでタイガが早速感想を伺ってきた。タイガイチオシと豪語していたのだ。もちろんカツラも大満足で太鼓判をおすにちがいないと思い込んでいる表情である。カツラは自宅についてからきちんと話したほうがいいと判断し、話をそらそうとした。 「えーと…」 「あれ?」 カツラを見るタイガの表情がぱっと変わる。カツラの背中越しに何かあったのだろうか。カツラが振り向くと同時にそちらから声がした。 「タイガくん!」 振り向いたカツラは声の主の男とばっちりと目があった。カツラより少し背は低いががっちりとした体格。肩に届く長さのウェーブがかかったブラウンの髪は後ろに一つに結われている。親しみやすい彫りの深い顔立ち。赤茶色の瞳の奥には知的さが垣間見える。口髭をおしゃれにカットした男もカツラを数秒見つめたが、すぐにタイガに視線を戻し、カツラの横を素通りしタイガの手をとった。 「来てくれたんだね。珍しいじゃない?休日に来るなんて」 「ええ。今日はカツラに。あ、俺のパートナーなんですけど。彼に感想を聞きたくて」 タイガが男にカツラを紹介しながら話すと男はさわやかな笑顔で改めてカツラを見た。 「どうも、今日はようこそ。アリッサのおもてなしに満足していただけましたか?彼女、そっけないから」 はははと微笑みながら話す男にカツラは無反応で片眉をあげて凝視ていた。 「カツラ?」 「あ?」 この店のもう一人のオーナーであるケリアはカリスマ性がある。彼と話すとつい先刻まで不機嫌だった客も笑顔になる。しかし、カツラはケリアを観察するように見たままだまっていた。普段と様子が違うカツラを気にかけタイガは声をかけたのだ。 「あのさ…」 カツラは視線をタイガに戻し意を決したように深呼吸をした。 「タイガには申し訳ないけど、この店にはっきり言ってさほど魅力は感じない。客の受けがいいのはわかる。リーゾナブルでそこそこいいものも食べられるんだから。でもこれといってこだわりは?酒もありふれたものだし、なんだかごちゃごちゃしていて統一感がないんだよ」 タイガは固まってしまった。オーナーを前にしてまさかカツラがここまであけすけに貶すとは。しかもこの店はタイガがイチオシの店だとカツラには事前に知らせてあった。それを真っ向から否定され、おまえは食のことが全くわかっていないと馬鹿にされたようで惨めになった。タイガのプライドはズタズタである。 タイガは気まずい空気にはっとなる。自分のことよりも店を否定されたオーナーを気遣わなくては。意識を目の前の二人に戻すと、ほんの数秒の間だが、二人が牽制しあっているように見えた。 「いやぁ…、参ったな。なかなか言うね。率直な意見、ありがとう」 オーナーであるケリアはカツラの言ったことを気にしていないのか頭をなでながら微笑んでいた。 「あの…」 タイガはケリアにどう言葉をかけたらいいのかわからなかった。 「はっきりした相方でいいじゃないか。ま、懲りずにまた来てよ?きみの言ったことも参考にしていろいろ改善させてもらうから」 ケリアはタイガからカツラに視線を移しながら宣言した。 まったく強靭なメンタルで前向きな人だとタイガは関心してしまった。じゃぁねと店に戻るケリアにタイガは会釈し、カツラに手を差し伸べ行こうと声をかけた。 カツラはタイガの手をとり数歩歩いたところでそっと後ろを振り向いた。店のドアに手をかけ今まさに店に入ろうとしているケリアもこちらを見ていた。彼はタイガには決して見せない獣のような目でカツラを見ていた。

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