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第312話 19-15

数日後、カツラはタイガからレストラン提携はトリスたちと訪れた店に決定したと伝えられた。あの店なら問題はない。経営者も評判がよくコンセプトも似通っている。きっと面白い店ができるはずだとカツラはほっとする。 「タイガ、お疲れ様。でかい案件だったよな」 「うん。でもやり甲斐あったよ。カツラにもいろいろ協力してもらったし。ありがとう」 タイガはソファーに並んで座っていたカツラの肩を抱き寄せた。 仕事から帰宅したばかりのタイガからは外の匂いがした。タイガの逞しい体に抱きすくめられ、カツラも自分の腕を回しタイガに抱きついた。 「あれ?なんだこれ?」 タイガのワイシャツの襟元に葉っぱがついていた。襟元から葉先をつかみとると、そこそこの長さの植物の葉がでてきた。 「これ?ヒバの葉か?」 ヒバの葉とはフラワーアレンジメントでよく使われる針葉樹林の植物である。 「あぁ、あの人だな。全く…。それにしてもヒバの葉だなんてよく知ってるんだな」 「あ?以前店で少しな。ところであの人って?」 「ケリアさんだよ。今日は休業日だったんだけど、新しくフラワーアレンジメントを開講するからよかったら顔覗かせてって言われてさ。月2回の予定らしいけどこれが人気があって。俺も少し一緒にやったんだ。そのときにケリアさんが肩を揉んでくれて。こんなイタズラするなんて」 タイガは呑気にはははと笑いながら今日の出来事を話した。 カツラはタイガから聞いた事実に愕然とする。やはりあれでは済まなかった。しかもこのヒバの葉はおそらくケリアからのメッセージだろう。カツラをからかっているのか、タイガと距離をおく気はないと。カツラは未だにケリアのマインドコントロールから醒めていないタイガをじっと見つめた。 「どうした?そんな怖い顔して?」 タイガはカツラのサラ髪を撫でちゅっと頬にキスをした。 「タイガ…。いまから話すこと、落ち着いて聞いてほしい。気をつけてほしいんだ」 「え?なに?」 カツラが何を伝えようとしているのか全く予想できていないタイガはキョトンとしていた。カツラはふーっと息を吐き呼吸を整えた。 「ケリアは…。ケリアとは過去に付き合っていたんだ」 「え?」 「短い間だったけど、恋人だったんだ。ちなみにあいつは医者だ。建築家じゃない。建築家は奥さんのほうだろう。どうして逆転しているのかわからないけど」 「え?ちょっと待って…」 タイガはカツラからの突然の告白に理解が追いつかなかった。なにか大切なことを聞き逃しているような気がした。先程から心の中で警報が鳴り響いているのだ。カツラはなんて言った?以前付き合っていた、医者。医者…。その瞬間、鳴り響いていた警報が一際大きくなる。カツラの元彼で医者と言えばあの話しか思い当たらない。カツラの体を変えた人物、カツラを隅から隅までまで味わいつくした人物。タイガは目がチカチカし、頭に鈍い痛みがした。額に手をあて俯く。 「タイガ?大丈夫??」 「うん…。驚いて…。どうして…、どうして黙っていたんだ?」 タイガは瞳の色を濃くしカツラを見た。 「むこうが初対面のフリをしたから。俺もとりあえず合わせただけだ。ケリアには気をつけろ。あいつは人の心を弄ぶのがうまいんだ」 タイガはケリアとカツラがレストランの外で顔を合わせた時、カツラが訝しむ表情でケリアを見ていたことを思い出した。 「ケリアさんは…。まだ…。まだ、カツラに未練があるのか?」 「それはわからない。とにかくあまりかかわってほしくないんだ。全部計算ずくでやっているはずだから」 「どうして?どうしてそう言い切れるんだ?」 カツラは言い淀んだが全て話さないとタイガは納得しないとわかっていた。それほどタイガはケリアに心酔してしまっている。 「あいつ…。俺の中でニ回出したんだ。絶対中出ししないって約束したのに。信じた俺もバカだったんだけど。それで別れたんだ」 なんだって!! タイガはここにきて今までにないほど頭が冴えてきた。カツラに中出しをした。それはカツラが男と肉体関係をもつときにずっと拒絶してきたことである。タイガの心臓がはげしく鼓動する。中出しをしたということはゴムをつけず、生でやったということだ。あの吸い付きまとわりつくようなカツラの粘膜の快感をあの男も知っているのだ。カツラはあの男にもゴムをつけずに素の交わりを許した。それほど心を許していたのか…。途端にドス黒い嫉妬が湧き上がる。 「それっ!どういうこと!?」 タイガはカツラの両肩を強く掴み半ば叫ぶように問いただした。

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