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第313話 19-16

カツラから聞いた内容は理解している。そうなってしまった経緯をタイガは知りたいのだ。 カツラはある程度予想はしていたが、想像以上のタイガの取り乱しに驚いてしまった。 「タイガッ、痛い…。ちゃんと、ちゃんと話すから…」 今にも自分にのしかかろうとするタイガの胸に両手を当て落ち着くように促す。タイガの息は荒く、こめかみに血管がわずかに浮き出ている。何度が短い深呼吸をし、タイガはようやくカツラの肩から手を離した。 カツラは行き場をなくしたタイガの両手の平に自分の手を重ねた。 「タイガ、過去のことだ。そして俺はそのことを悔いている。すっかり騙されたからな」 カツラがケリアと知り合った当時、ケリアは医者であったが、彼はそんな雰囲気は微塵もまとっていなかった。ひとなつっこい笑顔、低姿勢、カツラより五つ上だが少年のような雰囲気を持っていた。しかし会話の合間にはっとする発言をする。頭の良い男なのだと思った。 身だしなみも流行を程よく取り入れ服装のセンスもいい。おそらくファッションか営業関係だと検討をつけていたので、ケリアの本職を聞いたときギャップに戸惑った。しかしそれはいい意味での戸惑いだった。まだ若かりしカツラにとってケリアのような男は刺激的で魅力的だったのだ。 男は初めてだが君にはとても心惹かれる。付き合ってほしいとケリアから言われ、当時フリーだったカツラはいつものごとく深く考えずに受け入れた。 二人きりになるとケリアのスキンシップは積極的になり、体の関係をもつまで時間はかからなかった。 その時にカツラはまだ男同士のセックスに慣れていないことを医者であるケリアに打ち明けたのだ。 ケリアはその方面に実に詳しかった。もともと勤勉なケリアは男女の交わり、体のしくみ、快感を得る方法などを熱心に研究したことがあるというのだ。 任せてくれと豪語するケリアにカツラは体を委ねた。この頃にはカツラはすでに数人の男性との肉体関係は経験済みであったが、あと一つのところで満足感は得られていなかった。どうせなら気持ちよくなりたいと思うのは自然の流れであった。 結果、ケリアの手解きは見事なものだった。ケリアは熱心にカツラの体の隅から隅まで手や唇、舌、性器を使って愛撫した。そしてどこが一番感じやすいか、どうされたら自分は気持ちいいのかカツラにしっかりと刷り込んだのだ。ケリアとの関係が一月たったころ、カツラは男とのセックスにのめり込んでいた。 「一度ナマでしてみない?気持ちいいんだ、すっごくね」 「いや…。でも…。それは抵抗があるんだ。男だからかな。中で果てられるのはごめんだ。絶対に嫌なんだ」 「わかった。絶対カツラの中では果てない。カツラが嫌なことはしないよ」 訝しるカツラの目をまっすぐ見てケリアは誓った。 「ぼくは絶対にカツラを裏切らない。ただ、最高の快感をカツラと味わいたいだけなんだ。信じてほしい」 ケリアはゆっくりとしかし確信をもってそう語った。普段はおちゃらけているくせに時折真摯な眼差しになる。それもケリアの魅力の一つである。 結局、カツラはケリアのこの言葉を信じた。カツラはケリアの誓いの言葉にすがったのだ。自分の体の新たな一面を発見させてくれたケリアに対してすでに信頼は抱いていたし、何よりも未経験の快感に興味があった。 初めての素の交わりはカツラにとって衝撃だった。カツラは異性とですら薄いゴムを隔ててしか交わったことがなかった。カツラはこの快感に夢中になった。 ケリアとは会うたびに体を重ねた。素で粘膜同士を擦り合い、快感を共に追い求めた。ケリアは約束通り決してカツラの中では果てなかった。そのためカツラは安心しきっていたのだ。 素で交わるようになってから何度か目の夜。カツラが先に射精し果てたあと、まだケリアはカツラへの挿入を続けていた。激しい快感のあとにくりかえされる挿入のため緩く続く快感にカツラはすっかり酔っていた。背後から腰をしっかりと掴みリズミカルに挿入を繰り返すケリアはカツラが果ててからなおさら大きな喘ぎ声をあげていた。愛してる愛していると喘ぐケリアの言葉には答えずカツラは官能的な刺激にだけ意識を向けていた。また下半身の疼きが限界に達しようとしたとき、思いがけず奥までつかれ動きが止まる。その瞬間、カツラの腹に生温かい感覚がほとばしった。カツラははっと我にかえる。ケリアの荒い息遣いを耳にし、ケリアが中出ししたのだとわかった。カツラは激しい憤りと怒りでケリアを思いきり突き飛ばした。 中で出された感覚はそれまでの素の交わりと異なり最悪なものだった。気持ち悪い。ただそれだけだった。 この裏切り行為にカツラはケリアの謝罪を受け入れず一月無視し続けたのだ。

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