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第316話 19-19
ケリアの一件から一週間がすぎた。特に変わりなくタイガもカツラも穏やかな日常をすごしていた。
カツラからケリアとの過去を聞いたタイガは当たり障りなくケリアとは距離を置き、フェイドアウトするよう取り計らっていた。ケリアとの業務関係の可能性がなくなったため、特に不審に思われることもなかったようだ。
レストランの提携先が決まったことで、『desvío』の店長はアドバイザーという形で意見を交わすことになっていた。そのため店を不在にすることが多く、最近ではカツラが店を仕切っていた。
そんな中、今夜は久しぶりに店長が店に顔を出し、カウンターにまででた。店長の持ち前の酒に関する講釈はカリスマ性があり、常連、新しい客問わずにその場にいる者たちを魅了した。
カツラはカウンターは店長に任し、最近ようやくホールをこなせるようになってきたフヨウとバイト数人で接客業に当たっていた。
「カツラさん」
フヨウが小声でカツラに話しかけてきた。今接客中だというのになにか問題かとカツラは振り向く。
「カツラさん呼んでくれってお客様が」
「はぁ?」
カツラは遠目にドアのそばにいる客に目をむけた。鼓動が僅かに早くなる。接客中の客には失礼しますと笑顔を浮かべフヨウと交代し、自分は目的の客の元へむかう。
「どうしてここに?」
「相変わらずだなぁ。ぼくは客できたんだよ?」
ケリアは上から下にさっと視線を動かし舐めるようにカツラをみた。
「残念ながらカツラにじゃなく、店長に用事があってね。約束はしてある。でもカツラがいる店だから挨拶はしておこうと思ってね」
仏頂面のカツラのことなど一切気にする様子もなくケリアはウインクした。相変わらず自分のペースは崩さない。気づいているのかいないのか、相手の不快感など一切無視である。
「店長に?」
「そ。それにしてもまさかこんな店で働いていたとは。当時は教えてくれなかったから。てっきり服飾か美容関係かと思っていた。カツラ、華やかだから」
笑顔はさわやかだが、その目の奥には異様な光があった。服を着ているにもかかわらず、裸にされ体中舐めまわされいるような感覚に陥る。カツラは背筋がゾクリとした。
ケリアから逃げるように視線を引き剥がし、その場を離れ奥のカウンターで接客中の店長にケリアの来訪を伝える。
「もうそんな時間?楽しくてついつい」
店長はその場の接客をカツラに譲り、客たちにごゆっくりと言ってケリアのもとにむかった。
ケリアが視界から消えたお陰でカツラの憂鬱な気分はいくらかましになり、仕事に集中しているうちにすっかりケリアのことは忘れていた。今夜は早上がりのカツラはスタッフルームに向かう。
ドアを開けると、店長とケリアがテーブルに向かい合い座っていた。てっきり場所を変えて話し合いをしていると思い込んでいたカツラは愕然とする。
「お疲れ様です」
それでも態度には出さずに店長とケリアに挨拶をする。
「カツラ、今日は早上がりだったな。ちょうど話し合いも終わったところだ」
「よかったらこの後一杯飲みにいかないかい?店長には振られてしまって」
はははと微笑みながら話すケリアに店長は今夜はどうしても店にいないとと言い訳をしている。もちろんカツラも断る。
「だったらそこまで一緒にいこう。時間が合ってよかった」
「え?」
「そうだな。カツラ。ケリアさんをタクシー乗り場まで案内してやってくれ。少し飲みながら話したから」
テーブルには確かに酒瓶と二人分のグラスがあった。
「助かるよ、この辺にはうといから。夜だしね」
ケリアは立ち上がりそのままカツラのそばに歩み寄り、ずうずうしくもカツラの肩に腕をまわした。
「おい!」
「そんな目くじらたてないで。少し酔ってしまったみたいだ」
ケリアから離れ不快感をあらわにしたカツラの態度に悪びれることもなくケリアは相わらず爽やかな笑顔を浮かべ自分の正当性を述べた。
「カツラ、ケリアさんのこと頼んだぞ」
ニ人の過去の関係を知らない店長は今のやりとりに何も気づいていない。ケリアのことだ。また店長をうまいこと手玉に乗せたのだろう。数回会っただけではこの男の腹黒さはわからない。タクシー乗り場まではそんなに距離はない。カツラは嫌だったが渋々ケリアと店を後にすることになった。
タクシー乗り場が近いため、ケリアを伴って店内に戻り店の入り口へと向かう。すると入り口側のカウンターにはタイガがいた。
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