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第318話 19-21
突然のケリアとの出会いにタイガは体をこわばらせた。ここまで偶然があるだうか。
「タイガくんもここに食事に?」
タイガの不信感など一切気づく様子がなく、ケリアは朗らかに尋ねた。
「ええ、まあ…」
「いい店だね。店長さんに教えてもらって。アリッサと食事にきたんだ。花の香がたまらないね」
「ケリアさんもテラスに?」
「いや。テラスは予約でうまってしまっていて。店内だよ。内装にも凝っていていいね。ここにうちが競り勝つとは。ははは」
悪気なく言ったのだろうがタイガは提携候補から落とした件をちくりと仕返しされた気分だった。しかもカツラからケリアとの過去を聞いてから、ケリアの誘いに対してなにかと理由をつけ断っている。
「一人で?ってことはないよなぁ」
「あ?ええ。連れがいます」
ケリアはカツラの元彼だ。カツラがタイガに二人の過去について話していないと思っているのかその件について触れつもりはないらしい。
「こんなところで立ち話をしていたらアリッサに怒られるからそろそろ戻るよ。じゃあね」
ケリアのうしろ姿を見送るとタイガは脱力した。以前まではケリアのフワフワとした掴みどころののい雰囲気が魅力にしか見えなかったが、今ではそれがなにをしでかすかわからない不気味なものでしかなかった。
テラスの半個室は薄い布がかけられ、テーブル側は見えなくなっている。外からからは丸見えだが、テラスは店の前に作られた小川と花畑一面で人が入ることはできない。テラス側は店の奥まった場所で立ち入り禁止なのだ。そのためわざわざこちらに回り込む人はいない。故にテラス席は人気なのだ。
店内のケリアの席からはカツラは見えない。
しかもケリアの妻アリッサの存在が心強かった。とても仲睦まじい夫婦なのだ。タイガはほっと息をついた。
「タイガ、遅かったな。腹でも下したか?」
タイガの戻りを待っていたカツラは幸せいっぱいの優しい笑顔でタイガを迎えた。
「うん、まぁ…」
店長と関わりのあるケリアがこの店のことを知っていても不思議なことではない。タイガはカツラの顔を見て心配をかけまいとにケリアとの遭遇はあえて伝えなかった。
「カツラ、少し頼まれてくれないか?」
今日は『desvío』恒例の酒瓶の手入れの日である。カツラは早朝から出勤し、丁寧に酒瓶を磨き上げていた。しばらくすると店長が店に顔をだした。
「なに?」
「これな、ケリアさんが忘れていったんだ。ちょうど奥さんのアリッサさんが近くにきているようで。カフェロータスまで行ってきてくれないか?」
カフェロータスは店から五分ほどの閑静な住宅地にある。定年退職した夫婦が娘婿と一緒に経営しているこのあたりでは穴場のカフェなのだ。
今日店長はケリアとモーニングをとりながら話し合いをしたようだ。店長に胡麻をするケリアにカツラはいい気がしなかった。
カツラは気が進まなかったが、忙しい店長の変わりに渋々了承する。
「奥さんが来るのか?」
「ケリアさんはそのあと用事があったからな。大切な書類だからと手があいているアリッサさんに頼んだらしい」
「わかった」
カツラはケリアの忘れた書類を手にカフェロータスへと向かう。
焦茶色の木材を使ったコテージのような造りのカフェロータス。大きなガラス張りの窓に目をやると、店内にはまばらに人がいた。カツラは木製のドアに手をかけ店内に入る。カランとドアに取り付けられた昔からながらのベルがなった。
アリッサはまだ到着していないようで、カツラは奥の席に案内された。モーニングが終わりかけた時間帯で店は少しバタバタしていた。
数分待ったのち、手持ち無沙汰のカツラはアリッサに渡す書類が入った封筒の中身を見ようと封筒の中に手をしのばせた。
「こらこら。それは機密情報なんだから勝手に見ちゃダメじゃないか」
カツラははっと顔をあげ、なぜお前がここにいるんだという目でケリアを見た。
「助かった。大切な書類だから。何飲んでるの?僕もコーヒーにしようかな」
妻のアリッサではなくケリアが来たことに不快感を覚えたが、書類は無事届けたのだから自分の役目は終わった。なにもここでケリアと顔を突き合わせてお茶をすることなどないのだ。
「じゃ、確かに渡したから」
カツラは立ちあがりさっさと会計を済ませ店をでた。早く店に戻り酒瓶の整理をしなければと早足で歩き始める。
「カツラ!まってよ」
いきなりガシッと後ろから肩を掴まれ振り向かされた。カツラより上背は低いがケリアの力は強かった。
「なんだよっ!痛いな!」
「ごめん、ごめん。そんなに急がなくても。これ、ほら。カツラに」
ケリアが差し出したのは霞草のミニブーケだった。
「なにこれ?」
「カツラ、霞草好きだろ?だから」
もしかしたらとうすうす思っていたが、ミニブーケを見た瞬間カツラは確信する。ケリアはまだ自分に未練があるのだと。
「どうして?もう何年たつと思ってるんだ?」
「深い意味はないよ。ほら、香嗅いでみて。評判の店で買ったんだ」
そのあとに「カツラのために」という言葉をケリアは目で伝えてきた。カツラはケリアを納得させるためにさっさと一嗅ぎして店に帰ろうとミニブーケに顔を近づけた。芳醇な香が鼻腔をくすぐる。こんな香だったか?と一瞬眉根を寄せる。
「いい匂いだ。申し訳ないけどこれは受け取れない」
カツラはケリアの返事を待たずに踵を返し立ち去ろうとした。しかし次の瞬間グラリとめまいがし、そのばに膝をついた。
「ああ…。すごく効きやすい体質なんだね?」
カツラは額に片手を当て自分の目の前にきたケリアを見上げた。
「もう少し時間がかかると思っていたのに。でも大丈夫。僕がきちんと介抱してあげる。カツラ…。二人きりになれるところにいこう」
ケリアはカツラの肩を取り立ち上がらせた。
やられた!カツラはまたしてもケリアの罠にはまってしまったことにいまさらながらに気づいた。まさかケリアがこんな強行手段にでるとは考えもしなかった。
体がいうことをきかず立っていられない。鼓動も早くなり、体が内側からむずむずと疼き熱い。
意識が遠のくころ、車の後部席に寝かされる。
ケリアは鼻歌を歌いながら運転席に乗り込んだ。
「いざ、僕たちの隠れ家へ!もうすぐだからね、カツラ」
車は静かにケリアの目的の地へと走っていった。
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