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第321話 19-24

「カツラ…カツラ!!あっ…あああ!イク!イクっ!!!」 くぐもった声が遠くから聞こえる。カツラは自分がどこにいるかわからず声に耳をすました。 「あああっ!!すごい出た。ああっ、気持ちいい!締め付けて…カツラっ!愛してる」 カツラは目を開けると同時にガバッと体を起こした。ケリアが自分に覆い被さり目の前にいると思ったが、カツラはベッドに一人だった。しかも服もきちんと身につけていた。まさか自分は夢を見ていたのだろうかと思ったが、手首についた跡が夢ではないと告げていた。 周りを見渡すと、ベッドのそばには高い木製のついたてが置かれていた。先程の部屋とは異なるようだ。カツラはそうっとベッドから降りついたての隙間から恐る恐る様子を伺った。 「え!」 カツラは思わず声が出てしまった。 「タイガ?」 ついたての向こうにはテレビとソファがあり、タイガがソファにかけていた。 「カツラ!よかった、目覚めて。気分は?」 タイガはさっと立ち上がりカツラに近づき顔を覗き込んだ。 「俺…俺は…」 気持ちが混沌としていてうまく言葉にできない。カツラは俯き頭に片手をあて記憶を辿る。 「カツラ、カツラ」 耳に届くケリアの声にカツラは幻聴を聞いているのかと思わずびくっと身をすくめた。 「大丈夫だよ、カツラ。もう大丈夫だ」 「タイガ?」 「あいつはほら。あっち。お楽しみ中だから」 「え?」 タイガが顎でテレビのほうをさす。カツラは画面に映るケリアと知らない男のセックスに言葉を失った。 「カツラ」 そんなカツラにタイガが優しく声をかけた。 「間一髪のところだった。カツラはあいつに犯されていないよ。俺がくいとめたから。本当に無事でよかった」 タイガはカツラをぎゅっと抱きしめた。 「どうして?どういうことなんだ?」 カツラは状況に追いつけなかった。タイガが助けてくれたということは、犯されかけた姿を目にしたということだ。カツラは途端に涙腺が緩んだ。 「ごめん、タイガ。俺…抵抗しようとしたんだ。でも…」 「カツラ。カツラは悪くないだろ?一つずつ説明するよ。さ、かけて」 タイガはカツラと二人ソファーにすわり、邪魔だからとケリアのAVショウの音を消した。 「あれ?アリッサさんじゃないですか?」 早朝の社内でタイガはアリッサに遭遇した。彼女はスーツケースを手に足早にロビーを歩いていた。 「あら、タイガくん」 「ご旅行ですか?」 「偵察にね。今あなたのおじさんに挨拶してきたところなの。今回最終候補から落ちたのは残念だったけど、それで凹んでいられないじゃない?」 アリッサはいまから空港に向かうというので、外回り予定のタイガは途中までの道を共に歩いた。 「ケリアさん、寂しがるんじゃないですか?」 「そうでもないわ」 タイガは何気なく世間話のつもりで話を振ったのだが、アリッサは予想外の話を始めた。 「わたしたち、仮面夫婦なの」 「あ、今よくあるやつですか?」 「それよりも完璧な仮面夫婦」 「え?」 「わたし、女性が好きなの。ケリアはそういうわけではないようだけど、ある時から女ではいけなくなったみたい」 「え??」 この告白にタイガの警笛が響いた。 「うちは親がうるさいから。お互い様だからケリアとの結婚にふみきったの。実は今回も向こうで彼女に会うのよね」 クールなアリッサの表情がぱっと華やいだ。本当に相手の女性のことを思っているのだ。ここにきて頼りにしていたアリッサという最後の砦が崩れてしまった。タイガは焦る気持ちを悟られないよう努めて冷静に尋ねた。 「ケリアさんにも恋人が?」 「さあ?あの人、交際はかなり派手よ。隠すのうまいけど。そうだ!タイガくんのパートナー。ああいうのがドストライクだから気をつけたほうがいいわよ?前にもあったのよね。人のものに手を出して」 虫のしらせかこのアリッサの告白はタイガを『desvío』に向かわせた。そこでカツラがケリアの書類を届けるためにアリッサに会うと店長から聞いたのだ。アリッサが来るはずがない。彼女は空港に向かったのだから。これはケリアの罠に違いないと確信したタイガは急ぎカフェロータスへ向かった。しかしそこに二人の姿は見当たらなかった。 店員にカツラのことを聞いてまわると、一人が気分を悪くしたようで連れが介抱していたと店主が覚えおりタイガに教えてくれた。 杞憂ですんでほしかったが、その望みは叶わず。いよいよとんでもないことになると思ったタイガはケリアと決着をつけるため行動に出たのだ。

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