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第325話 19-28
ケリアは呆然自失としていた。こんなしっぺ返しを受けたことは今までなかった。完全に油断していた。まさかタイガにしてやられるとは。温室育ちの見るからに世間知らずな若造にまんまとやりかえされてしまった。それも自分がどうしても手に入れたかったものを取り逃がしたのだ。
とても店に顔を出す気になれず、あれから数日は外出せず自宅のベッドで横になっていた。目を閉じる度にケリアはカツラと過ごした時間を思い出していた。
睡眠薬を注入されたカツラはパタリと力が抜け動かなくなった。
思えばケリアがカツラの眠った姿を見るのは始めてだった。いつも先に眠るのはケリアだったし、目が覚めたらカツラは既に起きていた。
こうして見ると自分はこの男をとんでもなく欲しているのだと自覚した。彼の全てが愛おしかった。
カツラと別れてから女性との交際に踏み切ったケリアであったが、女性とベッドを共にしてもケリアの男性機能が発揮することはなかった。
ケリアの下半身は不思議なことに男性であると反応した。仕方なく男性と付き合うが、カツラほど身も心も満たしてくれる相手と出会うことはできなかった。
それからは性欲を満たすため、体だけの関係の恋人を数人キープしていた。
妻のアリッサとは両親の紹介で知り合った。ケリアの実家の事業を援助する約束で結婚に至ったものだった。一種の政略結婚であったが、アリッサもケリアと同じような状況だった。利害関係が一致したアリッサとの結婚生活は苦ではなかった。
どんな女、男といてもただ満たされないだけだ。最上を知ってしまったのだからどうすることもできなかった。
そのためケリアは仕事に没頭した。新しく始めたレストランでは客の顔をスケッチし、特徴をメモし、意識をかつての恋人に向かないよう常に努力したのだ。それはいつしか習慣となりこの作業こそ生き甲斐のようになっていった。結果、その甲斐あってレストランはそれなりに繁盛した。まさか、それがカツラにつながる道になっていたとは。やはりカツラとは運命で結ばれているのだと確信した。
予想外であったのは、カツラが婚姻していたことだ。しかも男と。カツラが男とのセックスを楽しんでいることに自分の技術と指導の賜物だと胸が高揚したが、同時に自分が教え導いたものを他人に横取りされたように感じ、タイガに対して強い妬みと敗北感が芽生えた。
再会後は偶然を装いカツラに会いに行った。
しかし、店長に聞いた店ではタイガに甘えるカツラを見てしまった。タイガに対するカツラの行動はケリアにとって衝撃だった。いつも一定の距離を置き自分を曝け出さないカツラが、タイガにだけはまるで初恋の娘のように瞳を潤ませ自ら寄り添い甘えていたのだ。これにケリアは強いショックと抑えきれない嫉妬を感じた。「あれは僕のものだ。取り返してやる」
ケリアのなかに決定的な行動にでる理由が生じた瞬間だった。
ケリアは寝息ひとつかかずに眠るカツラの唇にキスをする。彼の柔らかいサラ髪も美しい瞳も滑らかな肌も伏せた長いまつ毛もすべてが愛おしかった。まるで妖精のようなかよわい外見からは想像だにしない芯のある性格。話し方、相槌のタイミング、カツラを形成する全部を愛してしまったのだ。それはカツラが男性であるから生涯の伴侶としての関係を諦めなければいけない理由にはならなかった。ケリアはこのままずっとカツラの寝顔をそばで見つめていたい衝動にかられた。
しかしまだこれから時間はたっぷりあるのだと思い返し、まずは確実に契らなければとカツラをベッドに横にし、足のベルトを緩めた。そして下着は引きちぎり、ズボンを足首まで下ろして足をM字に大きく開脚させた。
丸見えになったカツラのアナルは縦にすっと線が入り、美しい朱にそまっていた。ケリアは挿入しやすいように、クッションをカツラの腰の下に引く。目的の場所はなおさら見えるようになる。ケリアは舌なめずりし、興奮のあまり目は充血していた。深呼吸をしゆっくりと自分のベルトを緩め、行為にうつろうとした。
ピンポーン
その時、玄関のドアベルが鳴った。ここは誰も来ないはずだ。ケリアは訝しながらも動きを止め招かれざる訪問者が立ち去るのを待った。
ピンポーン、ピンポーン
再びドアベルが鳴らされた。
ピンポーン
「すみませーん。地域の安全点検のためにまわっています!いらっしゃいませんか?」
男は再びドアベルを鳴らした。もう立ち去ってもいい頃合いなのにまだベルを鳴らし続けている。
ケリアは車を家の正面に停めたままであることにはっとした。普段ここをまわっている者なら不審に思うはずだ。通報でもされたら厄介だと判断したケリアはベルトを締め直し玄関へと向かった。
「はいはい、いまでますよっ」
ドアを開けるとキャップを深く被り眼鏡をかけた男が立っていた。マスクもしているので顔はわからない。
「こちらです。この用紙と…。受け取りのサインをお願いします」
ケリアは男から紙とペンを受け取りサインする。次の瞬間、首元に冷たいものがあてられぐいと体を室内に押し込まれた。
「静かにしろ。金をだせ」
ケリアは信じられないものを見る目で男を見た。男の手の先、ケリアの首元にはナイフが当てられていた。
「早く出せっ!」
ケリアは予想外の出来事に言葉がでなかった。奥の部屋を見られたらまずい。こんなわけのわからない男までカツラに興味をもたれたら!ケリアは慌ててポケットから財布を取り出しそのまま男に渡した。
「普段はこの家にいないから、手持ちはそれしかない。警察には言わないから早く帰ってくれ!」
「そりゃどうも」
男はそう入ってナイフとは反対の手で財布の中身を確認し自分のポケットに入れる。そのまま帰ると思っていたら、いきなり顔になにかをふきかけられた。そこでケリアの意識はなくなった。
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