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第326話 19-29
「タイガさん」
ケリアの隠れ家の外で待機していたタイガは強盗に扮したファーンに呼ばれ急いで家に入る。玄関の先にはケリアが倒れていた。シャツがめくれた彼の腹には殴られたのか濃い打撲の跡があった。
「殴ったのかい?」
「まさか。これをつかいました。誰かにやられたんでしょう」
ファーンはスプレーボトルを見せながらケリアを一瞥した。
「しばらくは起きない。ぼくはこいつを見張っているから」
「ありがとう」
タイガは流行る鼓動に押しつぶされそうになりながらも冷静であるように努めた。三つめのドアを開けると、衝撃なものが目に飛び込んできた。
「カツラっ!!」
タイガの目の前には気を失ったカツラがほぼ裸でベッドに縛り付けられていた。透き通るような白い肌には至る所にキスマークがあり、両足は大きく開脚させられ秘部が丸見えだった。すでに行為に及んだのか、これからだったのかぱっと見で判断がつかない。タイガはボヤける視界のままカツラにそっと近づいた。
「カツラ…」
気づくとタイガは涙を流していた。かわいそうなカツラ。愛しい人を抱きしめる前にタイガは意を決してカツラのアナルを確認する。
クチュっ…
アナルの入口は柔らかくタイガは焦った。まさか、挿入後なのだろうか。しかし指を奥まで入れたところで、長年の経験からまだ挿入はされていないと確信した。ほっと安堵のため息をつく。タイガは愛しくてたまらない人の秘部に顔を埋め匂いをかいだ。
しかし、そこには別の男の匂いがした。あいつはここを貪ったのだ。タイガの中にムラムラとケリアに対する怒りがなおさら込み上げた。目にした光景が衝撃的だったため気付かなかったが、部屋には精液の匂いが充満していた。目を凝らすとシーツには所々ぬれた跡がある。それはカツラの肌にも跡を残していた。
ようやく状況を飲み込める余裕が出たタイガは辺りを見渡す。ベッドのそばには練り物が入った小さな入れ物が落ちていた。
コンコン
「タイガさん」
ファーンが様子を伺いにきたようだ。
「ちょっと待って」
タイガはカツラにそばにあったシーツをかけ、ファーンを部屋にまねいた。
「えっ!?」
さすがにこの状況にファーンは驚いたようだ。四肢はシーツから大きく出たままでベルトで縛られている。そこには痛々しい内出血の跡。強姦目的で監禁したのは明らかだった。
「タイガさん、これ、念の為にいいですか?」
ファーンはタイガの了解をとってシーツごしだがカツラの写真を数枚撮影した。警察に届けるためだという。
「ギリギリのところだったみいだ。許せない」
卑怯な手を使ったケリアに対してその被害者を目の当たりにしたファーンもタイガと同じ気持ちだった。視線を落とすとふとあるものに気づく。
「タイガさん、これ」
それは先程タイガも目にした練り物が入った入れ物だった。
「ああ、なんだろうと思っていたんだ」
「これ、媚薬ですね」
ファーンはそれを手にとり遠目に匂いを嗅ぎ顔をそらした。
「媚薬?」
「本当に最低野郎だ。媚薬で言うことを聞かなかったから薬を使ったんでしょう」
ファーンはベッドのそばに落ちている注射器と薬の入った瓶を顎でしゃくった。医師免許を所持しているファーンは一目で見抜いたようだ。
「そんな…」
タイガはカツラが哀れでならなかった。先程目にしたケリアの痣。おそらくカツラが必死に抵抗したのだろう。タイガはなんとかして自分の貞操を守ろうとしたカツラに深い愛情を感じた。
「タイガさん、いい考えがあるんです。奴はまだしばらくは起きない。仕返しをしてやりましょう」
ファーンは知り合いのツテを使って男娼を読んだ。カツラによく似た背格好と黒髪の男が運良く捕まり、ケリアの相手をするよう依頼する。こういうことに慣れているのか男は「オッケー」と軽い調子で答えた。
次にファーンは手にした媚薬を持参したビニール手袋でとり、ケリアの肌に満遍なくぬりたくった。
カツラを別室に運び応急処置をファーンが施す。睡眠薬はまずいものではないようで、あと数十分すれば目を覚ますと診断した。
カツラに扮する男娼はカツラと同じ姿でテープに固定された。あとは、気を失ったケリアに催眠術をかけるだけだ。
準備が整ったら一行は速やかに身を隠しビデオを設置した。媚薬がまわったケリアはビデオには意識がいかないだろうとふんでのことだ。うまくいけば、証拠につかえる。
「あとはカツラが目撃したとおりだよ」
自分が気を失っている間にそんなことがあったとは。カツラはいつどうやってタイガがファーンと知り合ったのか尋ねた。
「それは…正確には知り合いの知り合いなんだ。本人が来られなくてかわりにファーンにお願いしたんだ。でも医師免許を持っているファーンが来てくれて今回は助かったよ」
タイガはベッドでとなりに横になるカツラのサラ髪を優しく撫でた。カツラの表情からまだ納得していないようだ。
「知り合いって?誰なんだ?」
「いずれ紹介するよ」
「いずれ?」
「カツラ。俺はカツラのナイトなんだ。絶対守るから。本当に無事で良かった」
タイガはカツラを抱きしめその存在を噛み締める。一連の行為でカツラからはもうタイガの匂いしかしない。
タイガは数ヵ月前に言われたことを思い出していた。
「それはどういうこと?」
薄暗い部屋で向かい合う男が言った言葉の真意をタイガは尋ねた。
「彼は魅力的だ。誰もが認めるだろうけど。その反面周りに与える影響も強い」
「だから?」
カツラに関することは気になって仕方がない。タイガは目の前に並べられたタロットカードを涼しげな目で見つめる男に先を促した。
「狂ってしまう奴もいるってことだ。彼が他人に与えた影響はそのまま彼に戻ってくる」
「カツラに戻る…」
「心当たりあるんじゃない?今まではなんとかすりぬけてきたけど、そう毎回うまくいくわけじゃない。いつか酷い目にあうかもしれない」
「どうすれば…」
タイガは膝の上にある両手を握りしめた。過去に何度も目にし耳にしたトラブルが思い浮かぶ。
「お助けパーソンがいるのさ。かなりレアな存在だ」
「誰なんだ!?いったい?」
男はまっすぐにタイガを指さした。
「え?」
「君だよ。だからこそ強烈に惹かれ合うんだ。ま、そのせいで彼の人を惹きつける引力も強くなってしまうんだけど」
「俺…俺が?」
「彼のタロットを見た時になんとなくわかったよ。そして今君のタロットを見て確信した。なんともまぁ…巡り合わせだね」
色素の薄い瞳を持つ男の口から出る言葉は妙に真実味があり、タイガは運命というものを強く感じた。
「守ってあげな。きみは彼の運命のナイトだ」
タイガはこれまでカツラの周りで起きたトラブルを思い返していた。自分はもっとカツラのために強くならなければならない。いつも事後報告ばかりだ。それではだめなのだ。
タイガの表情が今までないものに変わる。蛹から羽化するように本来備わった精悍な顔立ちに愛する者を守る覚悟が表れた。
「決心がついたみたいだね。僕でよければいつでも力をかすよ。きみと彼はニッキーの大切な友人だから」
タイガはこのことも近いうちにカツラに話せるだろうと今はまだ伝えずにいた。
カツラはそれ以上タイガにつっこんで話を聞こうとはしなかった。タイガに抱きついたままいつの間にか穏やかな寝息を立てていた。
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