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第328話 20-1

いよいよウエディングセレモニーが近づいてきた。シラーも長期出張という形でこちらに泊まり込みでつめている。今回モデルの筆頭としてランウェイを歩くカツラであるが、彼の様子は至って普通であった。さすが肝が据わっているなとタイガは感心しつつもカツラに大切なことを伝えなければいけないと思い、夕飯の準備に勤しむカツラに声をかけた。 「カツラ」 「もう少しでできるから。ちょっと待てよ。腹減ったよな?」 「うん…。あのさ。実は…。父さんが帰ってくるらしいんだ」 カツラは聞こえていないのか、相変わらずフライパンを手に炒め物をしたままだ。 「えーっ!」 しかし一瞬の間を置いて振り返り、驚嘆の声をあげた。 「マジ?!」 「うん」 初対面の人に強烈な感銘を与えるほど美しいカツラであるが、毎日共にすごすタイガにとっては見慣れた親しい顔である。しかし、今まさに困惑に戸惑っている表情はかわいらしく、タイガはカツラを抱きしめたくなってしまった。 「大丈夫。父も怖い人じゃない。カツラのこと、気にいると思うよ?」 タイガはカツラを背後から抱きしめ、サラ髪にちゅっとキスをした。 「そりゃぁ…。怖い人だとは思ってないよ。ただやっぱり緊張するというか」 「当日は俺の家で夕飯を食べよう?おじさんも来るって。忙しい人だから遅れるかもしれないどね」 「そっか…」 ウジウジするカツラはタイガの胸にささった。誰がこんなカツラを目にすることができるというのか。タイガは心地よい独占欲に思い浸る。 「それから…。母の姉が来るんだ。俺にとっては叔母なんだけど。その娘と」 「え?あ、そうなんだ」 「カツラはなにも心配することないよ。俺が一緒にいるから」 「ははは…。別に心配なんか」 そう言いながらも明らかに挙動不審のカツラは塩と間違え砂糖の瓶を炒め物にむけて何度もふりかけた。 「ったく!どこにいったのよ、あいつは!」 「一応さっきの衣装の採寸合わせはすんでるんだけど」 「だからこそ写真をとりたかったのに!もう、勝手にどこかにいっちゃうんだから!しかもまだ数着のこっているじゃない」 ハイヒールをカツカツ鳴らしながらあちこち駆け回るシラーは半狂乱寸前である。ボリジィはそんなにめくじら立てて探さなくてもというニュアンスでシラーを宥めるが、シラーにはボリジィの言葉は聞こえていないようであった。 今日はウエディングセレモニーの事前準備としてモデルと衣装確認する日であるのだ。サイズに違和感はないか、もっと魅力的に着こなせないか、衣装にあったメイク映えなどデザイナーやメイクアップアーティスト、カメラマンとの打ち合わせも行われる。 自分のサイズ確認、メイクが終わるとカツラはそそくさとその場から姿を消してしまったのだ。それは一瞬の出来事であった。 若草色のタイトなロングドレスに身を包んだカツラの存在感は抜群で、デザイナーたちははちきれんばかりの拍手と賛辞をむけた。まさにイメージ通りだと。胸元はXのデザインで開いているが谷間がそれとなくわかるようそこに特殊メイクまで施された。内蔵のパットと肩周りにつけたショールのせいで、胸元は女性らしい丸見であるよう目の錯覚を起こさせた。ぱっと見大人しいデザインドレスであるが、片側の太ももから下に大胆なスリットが入っている。髪はブロンドのロングヘアをシニヨンにアップし、黄色とオレンジの生花を耳元にあしらえいた。 「ほんと、化けるわね。トリスに見せてやりたいわ」 「ウエディングなのに大胆なんだな」 胸元と背中が大きく空いたデザインにカツラが鏡越しに自分の背中を見て言った。 「こういうのもありなのよ。時代が違うんだから」 それにしても女性顔負けのスタイルだ。胸はともかく、ヒップなんてなんのごまかしもしていないのにとボリジィは薄いドレスが張り付くツンと上がった尻に注目する。 タイガが楽しむわけね…。仕事の都合上、最近カツラといることが増えたボリジィはカツラを見ていると腐女子的な思考に陥ってしまう。なんといってもそこらへんの女性より美しい男なのだ。トリスがラークスパーテイルズにのめり込んでいる理由も薄々勘付きつつもこの男に当てられては仕方ないと妙に納得してしまう。 現に職場でもカツラに言い寄られたら即オッケイすると断言する男性スタッフが何人いるか。 ボリジィはトラブルが起きませんようにと願いつつ、やれやれとため息混じりに言った。 「これは問題なさそうね。あと三着は着てもらわないと」 「はいはい」 ボリジィは次に試着する衣装を取りに行くためカツラに少し待つよう伝えその場を離れた。おそらく試し撮りがあるので、そのまま撮影に入っていいと。しかし、戻ってきた時にカツラの姿は消えていた。

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