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第330話 20-3
「お、男?」
「えっ?」
琥珀原石を手にした者の声を聞いて男二人は驚きを隠せない。
「お前ら、カツアゲしようとしてたんだろ?」
片手で琥珀原石をかがげながら腰に手をあて話す姿はどう見ても女にしか見えない。しかも片側は深いスリットのため、男の意識を奪うには充分な美脚が丸見えなのだ。
「まさか…えーっと」
目の前にいる者は男のようだが美貌に当てられ、どうしたらいいか戸惑った男はゆっくり目的の人物にあゆみ寄りながら言葉を探す。
「それはじいさんに返すから」
目の前まで辿り着き、手を差し出した男はカツラと面と向かう。吸い込まれるような翠の瞳、透けるような白い肌。薄い桃色のルージュに染まった唇は形が良く吸いつきたい誘惑に駆られる。本当に男なのかと目を凝らし胸元に視線を向けると、胸もとには丸みがあるのだ。男は本能を刺激され、琥珀原石を差し出したカツラの手首をガシッと掴み自分のほうに引き寄せた。カツラはそれがわかっていたのか、男の手を捻り上げ足をかけ、テコの原理で男を横に見事に払いとばした。男は腰を打ち痛みのため悶絶している。
「っがっ!!」
もう一人の男の声がするほうにカツラが振り向くと、男は油断をしたのか老人から腹に肘鉄を食らったようだった。思わぬ反撃を受け男はよろけ、カツラに投げ飛ばされた男の肩をとり悪態をつきながら去っていった。
「ははっ。なかなかやるじゃん」
カツラは老人を賞賛し、手にした琥珀原石を彼に手渡した。
「いやぁ、たまげたね。蝶の妖精かと思ったが」
「俺が?」
まさか、ありえないというていでカツラが聞き返した。老人はくったくないカツラの表情に自然と笑みがこぼれる。
「ありがとう。これはとても大切なものなんだ。僕には価値があるもので」
「ん?」
老人の視線が自分の手首に移ったことでカツラははっとする。
「あっ!さっきのやつに掴まれたときに…。チェーンつけなおさないと」
カツラの手首にはタイガからもらった翡翠のリングのネックレスチェーンが巻かれていた。常に肌身離さず身につけている翡翠のリングが撮影の邪魔にならないよう、手首に巻き付けていたのだ。
「綺麗なリングだ。きみの宝物かな?」
「まぁね」
カツラはリングに唇を触れさせ言った。
「君には借りができたね。どうだろう?これ、受け取ってくれないかい?」
老人が差し出したものは先程男たちに渡そうとしたコインよりも一まわり大きい輝いたコインだった。コインには蝶の刻印がある。
「蝶は再生や普遍の愛を表すんだ。このコインはある国の建国時に作られた珍しいものなんだ。是非きみに」
「そんな…。これは高価なものなんじゃ?」
「お礼だよ。君がいなかったら身ぐるみ剥がされてこのコインも奪われていただろう。友情の証にどうかな?」
身素晴らしい姿とは裏腹に数回言葉を交わしただけだが、老人には威厳があった。カツラはじゃぁと素直に老人からコインを受け取った。
老人はそろそろ行かないととリュックを背会い直し会釈をし立ち去って行った。
カツラは不思議な気持ちだった。
ウエディングセレモニーの打ち合わせに嫌気がさして、軽い気分転換のつもりで外に出たのだが、この辺りに詳しくないカツラは歩くままに閉鎖中の公園に行き着いた。人の声がする方に向かうと、老人がトラブルに巻き込まれていた。あとはあっという間の出来事だった。
手にした輝くコインを見る。
「蝶か…」
昆虫が苦手なカツラであるが、琥珀原石もこのコインも全く嫌な気持ちにはならなかった。
「カツラっ!」
声がするほうに振り向くと、タイガが走り寄って来た。
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