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第334話 20-7

タイガの実家は山の上にあった。いわゆる高級住宅地である。カツラの自宅から車で一時間ほどのポートから三十分ほどいくと、緩やかな坂道が始まり閑静な住宅地に入った。どの家も敷地を充分にとった立派な家ばかりだ。 タイガの叔父が会社経営をしているため裕福な育ちなのだろうと思っていたが、生まれながらのお坊ちゃんなのかとカツラは改めて驚いていた。 「そんな気にすることないよ。両親の親の遺産を相続しただけなんだ。特に母のほうが広大な土地を所有していたらしくて。地主だったみたいだ。それをもとに建てた家だから」 「タイガのお父さんの家は?」 「古かったからそのときに取り壊して売却したみたいだ。叔父さんはもう自立していたし、父さんも家をよく空ける人だったから。いまから向かう家は母さんの希望で買ったようなものかな」 心なしかタイガの表情は明るい。カツラは久々の実家に心浮かれているのであろうと思っていたが実際は違った。タイガは早く美しい伴侶を身内に正正堂堂と紹介したかったのだ。 「お父さんはよく出かけるんだな。そういえば、仕事はなにをされているんだ?」 「言ってなかった?大学教授なんだ」 「え!?」 カツラはタイガの叔父と同じくなにか事業を経営しているものと思い込んでいた。全く予想外の答えに声が出てしまった。 「そんなに意外かな?だからよくでかけるんだ。なんだかんだ探しにいくって」 「なんの教授?」 「植物だよ。そのへんは俺はまったくダメで詳しくは知らないんだけど。でも自分の好きなことを押し付けてくるような人じゃなかったからありがたかったかな。どっちかっていうと少年みたいな人だと思う」 タイガは留守がちな父より叔父とすごす時間のほうが多かったと語っていた。自分の父親を客観的に観察できるのはそのあたりの影響なのかもしれない。 「楽しみだ」 当初の不安はどこへやら、カツラはタイガの父親の人間性に興味をそそられた。すでに数回顔を合わせている叔父も合流することになっている。あまり肩肘張らずに自然体でいこうと思った。 坂の頂上付近になると赤茶色のレンガの石造の塀が見えた。かなり広い敷地を囲っている。低い大きな門の向こうには立派な庭園がある。薔薇の庭園と言ってもいいぐらい、色とりどりの薔薇が咲き誇っていた。 「すごいな。これ、お母さんの?」 「いや。これはおばさんがね。母さんは季節それぞれの花を育てていたから。おばさんが薔薇が好きで」 車をスロープの上のガレージに入れながらタイガが説明する。タイガの声のトーンが少し低くなったことにカツラは気づかなかった。それほどに鼻腔にかかる薔薇の香がすさまじかった。スロープの上からだと薔薇がなおさら見事にみえた。圧巻の景色だ。 「玄関は二階なんだ。なんせ坂の上だから」 「うん…」 カツラは曖昧に返事をしながら一抹の不安を覚えた。庭一面を占める薔薇。まるで他者を寄せ付けぬようこの家を守っているような。ぱっと見は美しく目を惹く薔薇であるが、なぜだかカツラの訪問を歓迎していないように感じたのだ。 「おつかれ、カツラ」 タイガは先に運転席から降り、助手席のドアを開けカツラに手を差し伸べた。 「ありがとう」 「どういたしまして」 今日カツラはスーツを着ていた。焦茶の七分袖のカジュアルスーツ。ハイウェストのスラックスにシャツは形の良い黒いシルクシャツ。その様はまさに一流雑誌の表紙を飾る有名モデルのようであった。普段カツラはスーツを着用しないため、タイガは着飾ったカツラから視線を離すことがなかなかできなかった。 カツラの服をゆっくりと一枚ずつ脱がせ、タイガの母の形見であるリングのネックレスだけを身につけた姿でセックスをしたかった。 「どうした?」 甘い目で自分を見つめるタイガがまさか今そんな妄想に耽っているなどと露知らず、カツラも微笑み返した。 「なんでも。いこうか」 二人は手をつないだまま玄関へ向かった。

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