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第335話 20-8
タイガはポケットからカードキーをとりだした。
「最近叔母さんが変えたらしいんだ。防犯上こっちのほうがいいって」
「そうなんだ」
見た目はアンティークな扉であるが中身は最新式のようだ。これだけ立派な邸宅なのだから、防犯対策を厳重にするにこしたことはないのだろう。
「普段はおばさんがこの家を管理しているんだ。おばさんの家もすぐ近くで」
ぴーっと音がしドアが解除された。荘厳な木製ドアを開けると一部屋ぐらいの広い玄関である。目の前の台座には大きな花瓶に立派な花が生けられていた。これもまた薔薇である。
タイガはカツラを伴い右手側に進んでいく。開けた空間。四方にニ階の廊下が吹き抜け上にあり、中央には階段があった。室内はひっそりとしていて、優しい日差しがベージュで統一された壁とマッチして自然の光だけでも居心地がいい空間を作り出していた。
「タイガ!おかえりなさい」
左手のドアが勢いよく開くと同時に甲高い声がした。そこには艶のある栗色の髪を一つに編み込んだ可愛らしい女性がいた。彼女の雰囲気に良くあった濃いピンク色のワンピース姿。彼女の存在はそこに花が一輪咲いたようだ。
「ペスカ?久しぶり。変わってないな」
「それはタイガだって」
そういうなりペスカと呼ばれた女性はタイガの胸に飛び込み両腕をまわした。
「相変わらずだな。もう、こういうことはやめないと」
「どうして?いとこなんだからいいじゃない?」
カツラは一人その場に取り残されたような気分になる。二人の話からして彼女はタイガのいとこらしいが。タイガと出会ってからカツラは今まで経験したことのない感情ばかりわきあがる。この場にいるのがなぜだかつらい。
「ペスカ。俺の大切な人を紹介するよ。カツラだ」
タイガはペスカの腕を自分の体からひきはがしながらカツラに振り向き笑顔をむけた。カツラはタイガに気づかれないよう沈んだ気持ちをさっと隠し微笑んだ。
タイガの身体ごしにペスカはいやなものを見るような目でカツラを覗き込んだ。
「初めまして」
カツラは微笑みペスカに挨拶をする。
「ペスカ、俺のパートナー。挨拶して」
「どうも」
タイガに促されペスカは渋々挨拶をした。
「カツラ、いとこのペスカ。俺の母さんの姉さん。おばさんの娘なんだ」
「おばさんの夢知ってる?わたしとタイガが結婚することだったのよ?だめじゃない、叶えてあげないと」
「またその話?それは無理だってずっと言ってるだろう?」
「でもわたしの言うとおりになった。あの子とは別れたんでしょう?」
最初こそペスカの態度に驚いたカツラであったが、そういうことかと今は妙に納得していた。
「あの子」とはおそらくカエデのことだろう。ペスカの初恋はタイガなのだ。無理もない。こんなにいい男がそばにいたら。カツラは自分もタイガに一目で恋に落ちた経験からペスカに少し同情した。
「俺とタイガは別れないよ。な?タイガ」
カツラは余裕の笑みを浮かべタイガの手をとった。
「カツラ、先に部屋に案内するよ。少しそこで待っていて」
「あ…。うん。」
カツラはそう答えることしかできなかった。タイガはカツラが繋いだ手をすぐに離し話題を変えたからだ。そしてペスカにはリビングで待つように言い、部屋にむかい歩きはじめた。
カツラはノロノロとタイガのあとをついていく。振り返るとペスカが勝ち誇ったような目でカツラを見ていた。
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