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𝐷𝐴𝑌 𝟙 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟝 ③

 「とりあえず必需品か。コンビニ、、いやスーパーあるかな」  パソコンの電源は入れたまま、貰った鍵を握りしめてまだ外が明るいうちに買い出しに行く事にした。  スマホを持って地図を頼りに進む。一番近いスーパーまで徒歩15分、散歩がてら近所を知るにはちょうどいいくらいだ。  アパートを出て坂を降り切ると交通量が多い二車線道路に出る。端の歩道を歩きながら走る車を見ていた。県外ナンバーをよく見るのも賑わう海岸での特徴だ。地元か遠方からか遊泳客の割合を把握しておくのもライフセーバーの大事な仕事の一つ。  海のすぐ近くとあってショップやホテル、南国ムードあふれるカフェなどが並んでいる。店内の様子が気になり何となくペースを落としてガラス越しに見ながら歩く。  店員と客は親しく友達のように和やかな雰囲気で開いたままのドアから洋楽のメロウなサウンドが流れて漏れ聴こえる一つのサーフショップに足が止まった。  「お兄さん、気になるなら中どうぞ!サーフィンやられるんですか?」  「あーいや。自分はただ見てただけで」  「肌もこんがり焼けてるし波乗りの方かと思いましたよ」    お店のアルバイトらしき若い女の子に声をかけられた。長い髪を一つに束ねた活発そうなその子も褐色の肌をしていてこのお店がよくお似合っている。  「だとしたら観光ですか?」  「仕事でちょっとこっちに、今日来たばかりで少しの間いる予定なんです」  「へぇ今日来たばかり?それじゃ須野の事まだ知らない事だらけですよね。私でよければ何でも聞いて下さいね」  「ああ、ありがとうございます」    "すいません"と声をかけられて客と話始めた女の子を見て礼はペコリと頭を下げて、仕事の邪魔にならないように素早く立ち去った。  頭を空っぽにしてただこの街の空気を身体に取り込むように歩いていると目的のスーパーが見えて、最低限の買い物だけをしてお店を出た。  トイレットペーパーと軽々しく持ったレジ袋には鶏肉と野菜と少量のフルーツだけ。料理しないとは言えかなり質素な食事量だ。  アパートに帰るとカットされた野菜を器に入れて、そのまま食べられるスモークチキンを温めて適当に手でちぎって乗せる。全く調理器具が揃っていないキッチンで出来る料理で思い付いた結果。  それまでは家に帰ると温かくておいしい料理が待っていた礼にとっては料理は難く感じた。 一緒に食べる誰かがいればきっと調理器具だって今も段ボールの中に入っていただろう。 暖かい料理の味を無くして一年半が過ぎた。  「須野、なかなかいい場所かも」  少し錆びかけた窓枠を椅子がわりに座ってスーパーでもらったプラスチックのフォークで遅めの昼食を食べる。何もない静かな部屋に潮の匂いとチキンの香りが広がった。

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