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𝐷𝐴𝑌 𝟙 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟝 ⑤

 たんまりと入ったゴミ袋の中に瓶や缶が何十袋にもなり一箇所に集められた。清掃を終え集まるライフセーバー達の背後から二人が歩いて戻って来た。  「みんなお疲れさまです。次の作業に移る前に一人紹介する方がいるので少し時間を」    そこにいる誰もが東の隣にいる礼に視線を向けて何者かを知りたがっている。戻ると早速、東がそう言って礼に合図をした。  「みなさんおはようございます。ライフセービング協会の運営マネジメントグループから派遣されて来ました、真壁礼です。協会の人間と聞くと硬いイメージがあるでしょうが、この須野の海に関しては素人ですのでみなさんから教わる事も多いと思います。二ヶ月半よろしくお願いします」  パラパラとした拍手に多少の遠慮と緊張感が伺えるが、協会の人とは言え優しそうな雰囲気にひとまず安心した全員。    「それではこれからの明日からの各自の分担と作業を伝えるからよく聞いて下さい」  東が一人一人の名前と明日の持ち場を発表していく。それを横で聞きながら顔と名前を照らし合わせて頭に入れて覚えていく礼。  「休憩は各自合間に指定の場所でとって下さい。それでは業務に移って下さい!」  "はい!"と体育会系の返事が浜辺に響いて気合い溢れる黄色の戦士達は散らばって浜辺の砂を蹴って行く。  警備本部の中で二人になると、東はおもむろに何十台と並んだトランシーバーを手に取ってイジリ始めた。普段の監視業務で全員の連携と大事な事を伝え合う必要不可欠なアイテムだ。    「何してるんですか?」  「これはトランシーバーの作動チェックです」  「えっ、これ全部?一人で?」  「えぇ。冬の間ほとんど動かす事がなかったので壊れてなきゃいいけど」  「いや、だけど東さん一人の業務が多すぎます。もう少し分担しないと」  「これぐらい大丈夫ですよ。もう慣れましたし、結局人に任せたところで自分でやらないと気が済まないんです。それに一応副キャプテンの奴がいて、僕がいない日は任せられ相棒もいるんで大丈夫ですよ」  「それで、、今日はその方はどちらに?」  「今日は茨城の方に大会に出場するために行っます。大丈夫、明日の朝イチには戻ると聞いてますので安全祈願祭には間に合うでしょう」  そう言って手を動かしながら部屋の掛け時計に目をやると作業をやめてデスクの書類を手にした東。  「あっ!ちょっと僕は明日の打ち合わせに海岸本部に行ってくるのでここお願いしてもいいですか?真鍋さんは真鍋さんでやるべき仕事あるかと思いますし、遠慮なくやって下さいね」  「あっ、はい。わかりました」  忙しくじっくり座る暇もなく動き回る東を見送って礼もやっと自身の仕事を取り掛かる。 開いたパソコンには本部からのメールが届いて未読マークがずらりと連なっている。  「……人の事心配してる場合じゃないか」  "お疲れ様ですー…"と上司からのメールを一つずつ返信をする。そして未読メール一覧に表示された仕事とは関係のない名前に手が止まった。  差出人"仲根佑香"と女性の名前に写真を添付されてるようだ。メールを開くと短い文章に向日葵の写真が添えられていた。  "そっちの生活はどうかな?千葉はこっちより暑い?今日はひまわり畑に来たよ。結婚前に3人で行ったあのひまわり畑に。 天気も良くてついあの頃思い出してしまったな。また連絡するね。体には気をつけて"  添付されたひまわりの写真を拡大する。サンサンと降り注ぐ日光を浴びたひまわり達はみんな同じ方向を向いて空を仰ぎ太陽と雨を吸収して生かされていた。  "写真ありがとう。自分も今このひまわりみたいに知らない場所で新しい事を吸収しているよ。でも海はつながっているからどこにいても同じです。また近いうちに会いましょう"  そう打ち込んで送信をした。SNSもしない、何処にいるか誰かに伝えることもほとんどない礼の居場所を唯一知っている相手。  そう、海はすべて繋がっている。 だからどこへいても愛する人を感じられる。

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