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𝐷𝐴𝑌 𝟞 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟘 ⑥

 キャプテンの東でさえ接し方に多少戸惑うのは今まで協会の人間とニヶ月という期間仕事した経験がなく、そして元々協会にいいイメージもないため。    「どうせニか月ほどの話じゃん。俺たち須野のライフセーバーはみんな優秀だから協会の人間なんかね負けてねーよ」  「まぁな。お前以外はな」  「おいっ、そんな事言ってっと道路の真ん中で降ろすぞー!」  「ばかっ、、危ないから前見ろ!」  ぐらっと車線をはみだした車内でフロントミラーに引っ掛けてあるお守りがプラプラと揺れる。大会の日には弦担ぎとして、つばさも東も必ず必ず身に付けている大切な物。  海と共に生きていく決意を表したお守りは、つばさと東とそして由井樹未斗の固い友情の証。  ◆◇◆◇◆  海開きから三日が立ち初めての土曜日が訪れた。気温は上昇するばかりで須野海岸のコンクリートの温度はホットプレートのように暑い。薄いサンダルが溶けてしまいそうな道路をヨタヨタ歩く。  『くそっ、、重すぎる』  この日も朝から思った以上のRock the Oceanの盛況ぶりと暑さにランチタイムの終わり頃には氷が底を尽きかけ、急いで買出しを命じられたのはもちろん麻比呂。  レジ袋からパンパンに入ったブロックアイスの袋が今にも飛び出そう。なるべく早くお店に戻らないと氷は溶けるし、お店も人手不足で回らない。焦る気持ちとは裏腹に足がついていかずイライラは増すばかり。  その時、後ろからヨタヨタ歩く麻比呂の隣に1台の車がすーっと速度を落として止まった。運転席の窓が開いて、顔を出した知らない男に疲れきった顔を向けた。  「あの。たぶん落としてますよ、ほらあそこ」  『えっ、?落としてる?』  振り返る二人の目の先には、確かに麻比呂が今まさに苦悶の顔をして運んでいるアイスブロックの袋があった。手元に目をやると道路に擦れた袋の底に穴が開いていて、知らない間に落としてしまっていたらしい。残りはギリギリ穴に引っかかってとりあえず落ちたの一つだけで助かった。  『うわ最悪、、あー…でもいいです。わざわざ教えてくれてありがとうございました』  運転席にそう言って袋を持ち上げ穴の開いた底にに手を添えて抱えて歩き出した。疲れとイライラのあまり引き返すなんて絶対したくない、一つくらいなくてもまだ沢山買い込んだしそれより早く店に戻らないとと急いだ。  すると後ろでドアの開く音が聞こえピタッと進む足を止めて振り返えると、男は車から降り落ちた袋を拾ってカラフルなマリンシューズで軽快な足取りで麻比呂に近づいて差し出した。  「はい。大丈夫まだ溶けてないみたいだし使えますよ」  『いやそうゆう意味で言ったんじゃ、、でもありがとうございます』  「もしかしてビーチに?それなら自分も行くので車乗っていきます?」  『いやっ、、俺は海水浴客じゃなくて海岸沿いにあるカフェの店員で』  「あーそうなんですか。なるほど!それはかき氷に使うやつか。ずいぶんたくさん持ってると思った。でも方向同じみたいだしそのカフェまでよければ!というか、、もう一歩も歩けないって顔してる」  『あー…なんかすいません」  くすっと微笑んで男は麻比呂が抱えたレジ袋を掴んだ。アイスブロックからじわっと漏れる水滴で袋が濡れていたが構わず車の後部座席に置いた。  「後ろいっぱいだから助手席にどうぞ」  そう言われ麻比呂は助手席側に回り辿々しく座るとあまり見かけない車内に興味をそそられる。  『、、後ろの座濡れません……かね?』  「大丈夫、はっ水仕様の座席カバーなので。お店までの道を教えてくれます?」  『とりあえずしばらくまっすぐで』    麻比呂はシートベルトを締めてダッシュボードにある無線機に気付いた。後部座席のさらに後ろのスペースには最低限の怪我の手当てが出来るファーストエイドキットやAEDの赤色がどうしても目につく。  「この車……お兄さんのですか?」  『車に興味あるんですか?』  「あっいや、何か変わった車だから」  『違います仕事用ですよ。そうだ、自分は今ここ須野でライフセーバーやってます真壁礼っていいます。これは先に名乗らなくちゃいけなかったですよね。ごめんなさい、これじゃただのナンパだ』

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