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𝐷𝐴𝑌 𝟞 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟘 ⑦
動きだした車はゆっくり走る。人見知りの麻比呂は相手が身分を明かしたライフセーバーだからと言って、初対面のよく知らない人間の車に乗るなんてと自身の行動を少し驚いていた。
「こんな重いのよく一人で、しかも歩きで」
『あぁ…思った以上にお客さん来て急遽買いに行けって言われて、、たくさん必要だからコンビニとかスーパー何軒かハシゴして」
「なるほど、だから遠くの店まで」
冷房が聞いた涼しい車内で汗を冷ますようにしばしの休憩、、と言っても車ならお店まで5分かからずお店に着く。土曜日で混雑した海岸通りはゆるい渋滞が起こっていて通り過ぎる駐車場も埋まっていっぱいだ。
「地元の方ですか?それとも遠くから通いで?」
『あっ俺はここで生まれ育ってずっと』
「そうなんですね。そうだ名前聞いても?」
『麻比呂、、由井麻比呂です』
「いい名前ですね」
お互い顔は正面の車の向いたまま礼が問いかけ麻比呂がそれに答える、そんなラリーが続いた。無線機から時々聞こえるやりとりの声が車内のBGM代わりになっている。
『お兄さー…真壁さんもお仕事中ですよね?』
「ええ。自分は外のパトロールを。今日みたいな混む日はビーチの外でもトラブルが起こりかねないので。さっきもね、駐車禁止区域に停車してる車を注意したら突っかかられました」
『えっ、大丈夫ですか?』
「もう慣れてるので」
『、、ライフセーバーは大変な仕事ですね』
「人は海を見るとなぜか心が穏やかになって浄化され心身共に解放される。だけど裏を返せば、気持ちが大きく大胆になっていつもしないような事をしたくなるもんです。それがトラブルや事故になる」
『それは何だかわかる気がします』
「そう、気持ちも分かるから過度な制限はしたくないですよね。みんな海が好きですからね」
前車のテールライトが消えて動き出した車の流れについて行く礼の横顔は凛としていて、明らかに年下の麻比呂にも敬語を崩さず淡々と話す。
「次の道曲がって下さい」
言う通り左折して少し進むとお店から出てくる客や外で並ぶ客が見え、店の真ん前に停車した。
『店ここです』
『お洒落な店ですね。ロック、ザ……あれどこかで聞いた気が、、この店の事か』
独り言のように窓から看板を読んでいる礼が見て言った。車から降りて後部座席に回り濡れた袋と底が破れた袋を抱えた麻比呂。
「中まで持ちますよ」
『いえ、ここで充分です!助かりました』
「これくらい大した事ないです。氷、大丈夫そうでよかった」
『またお店に食べに来て下さい』
「ええ、伺わせて貰います」
『あとそれとー…海』
「ん、海?」
『嫌いな人も居ますよ、俺みたいに。人はみんな海が好きだって言ってたので一応。ではありがとうございました』
そう言って麻比呂は頭を下げて店の中に入った。店内から振り返って車が走り去るのを見えなくなるまでじっと視線で追った。
麻比呂が思う礼は、口調は優しいが表情は変えず淡白なイメージだった。"海で人を助ける"の信念に沿って、海を生き甲斐に仕事をしている人だと。
きっとあの人にこの気持ちは絶対分からないだろう。大切な人を亡くした海を好きでいられる訳ないんだ。
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