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𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟙 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟚 ④

 全員が目を大きくして物珍しそうに礼を見る。そんな奇行の目を向けられて理由も分からず小首を傾けて小声で言った。  「そうです。高瀬さんに紹介して頂いたアパートですけど、、」  「もしかして真壁さんってとてつもない鋼の心臓持ってます!!?それかものすごーーく鈍いかどっちかですかっ!!?」  礼に顔を近づけて質問を投げかけたつばさのおでこを本日2回目の東の鉄拳が飛ぶ。  「おいっ、つばさ失礼だろ」  「痛っ、!ってかさっきから叩きすぎ!」  「まぁ確かに古いですけど全然問題なく住めてますよ。そんなに心配ー…するほどでは」  「虫とか大丈夫ですか!?床に穴空いたりしてません?あと雨漏り注意ですよっ!今日の朝からのこの雨じゃ今頃家、水浸しだったりしてっー!?」  お酒がめっぽう弱いつばさは一杯飲み干しただけでほんのり顔が赤い。お酒の力を借りて上司に無礼講なんてサラリーマンによくあるような構図は須野の海じゃまず見る事はなかった。  「つばさ、いくらなんでも盛りすぎだ。タカちゃんに怒られるぞ!それにライフセーバーなんだから水には慣れてるから平気だろ〜」  「おじさん、上手いっ!!」  盛り上がる二人に冷たい視線を送る東と麻比呂。礼もとりあえず愛想笑いをして目の前の料理にパクリと食べた。完全に2対3に温度差が分かれている。  年代物の古いレコードから流れる洋楽ロックのドラムのリズムとギターの高音が二人の笑い声と合わさって店内は賑やかだ。  『……お父さんもつばさくんもさっきから全然面白くないよ。すいません、、二人は放っておいてください。いつもこんな感じなんで』  「そういえば、高瀬さんもこの街の人達はみんな仲良くてほとんど顔見知りって言ってましたね」  『確かに須野は大きな街じゃないし、かといってすごく田舎でもなく会社もお店もあって、ちゃんと学校もあるんであまりここを出て行く人は少ないかもしれません』  「みんなこの街を愛してるんですね」  礼の言葉はいつも丁寧で優しく、否定や荒い口調になったりすることもない。それがまた感情を読みにくくして本音がわからなくなる。 いつもどこか冷静で一歩引いて物事を見ているようなそんな気さえした。  「そういえば部屋に家具は揃ってるんですか?」  「ええ、前に使ってた人のものがそのまま残してあったので最低限のものは」  「布団とかを机は?」  「簡易的なマットを敷いてタオルかけて寝てます。机やイスはないので送った荷物が入っていた段ボールにパソコン作業とか食事をおいて…」  子供の頃からの度重なる引っ越しのせいか、家や物への愛着やこだわりが全くないと言う礼。夏と言うのが幸いだが、体力が資本のライフセーバーの仕事柄この生活はいかがなものだろうか。  「ダメっダメ。ちゃんとした布団で寝て、しっかりした食事をしないと。そうだ!ずっと使ってないテーブルと椅子がこの店にあるんだよ!もしよかったらもっていくかい?」  「あっいえ、別にそんな、、今ので十分なので」  「いいから持ってってよ!その方がこっちも片付いて助かるからさ。ちょっと待ってて」  そう言って奥の物置へと行ってしまった父親を見てまた余計なお節介を始めたと呆れている麻比呂は、テーブルの空いたグラスを片付けようと手を伸ばすと礼と目が合った。  『あのっ、、まだ何か飲みますか?持ってきますけど』  「それじゃウイスキー頂きます」  「へぇ〜真壁さんって意外とお酒いけるクチなんですね!麻比呂〜俺も同じの頂戴ー!」  『つばさくんは辞めときなよ。もうお終い』

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