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𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟙 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟚 ⑤

 よっこらしょっと重そうに一つずつ抱えて戻ってきた父親の手には机と椅子がほぼ新品と言える位の綺麗な状態。一つ引き出しが付いた紺色のおしゃれなパソコンデスクだった。  「これこれ!どうだい?使えそうだろ!?」  『お父さん、そんなのどこにあったの?』  「いつだっけかな?お店に置こうと思って買ったものの店内の雰囲気に合わなくてな、そのまま物置で眠ってたんだよ」  そう言いながら(ほこり)を手で払うと大きくくしゃみをした父親。何年も使われないまましまわれていたにしては状態も良くほとんど劣化が見られないのは素材の良い高級品の証。  「悪いですよ、もらうのは。自分は今ので充分ですから。お気遣いなく」  「いいじゃないですか〜もらっていけば!どうせ奥さんに隠れて買って証拠隠滅したいんですよ〜」  「おい!つばさ言ってくれるじゃねえか。店で使うつもりだって言っただろ。言っとくけど、つばさにだったら金とってるぞっ」  「ひどーー!奥さんに言いつけるー」  また始まった二人の茶番劇に呆れ顔の東がトイレに立って、自然と礼と麻比呂の二人の空間になり目と目が合った。  『あの、、別に大した物じゃないし店の倉庫いっぱいだからもらってもらえると有難いです』  「あぁ、、じゃあー…お言葉に甘えてもらっていきます」  そして海の男達のライフセービングやサーフィンの話は途切れることなく続き、テーブルの上を埋め尽くしていたお皿やお酒のグラスやジョッキはすべて空っぽに。閉店時間も過ぎてそろそろお開きモードになって席を立つ。    「ありがとうございました、すごく楽しい時間でした。しかも机まで頂いちゃって」  「こんな感じの店だけどいつでもどうぞ」  「はい、寄らせていただきます」  「それじゃ麻比呂、一緒にこれを家まで運んであげてくれ」  『ん?はっ!?俺がっ?』  「これを一人で家まで運ぶのは大変だろ?」    木製の机と椅子はそれなりの大きさと重さがあって鍛えた身体の礼でもキツいだろう。ましてやアパートはこの店の裏にある急な坂道を上った先だ。  「大丈夫ですよ!一人で持てますからっ」  「ムリだよ〜いいからいいから!手痛めたりしたら大変だ。須野の海を守る大事な身体をだからね」  『お父さん、俺は痛めてもいいってわけ?』  「麻比呂は海に入らないし、店で包丁持つでもないだろ。つべこべ言わずにいってらっしゃい〜!東とつばさも今日ありがとな!」  そう言って4人に手を振ってテーブルを片付け出した。店の入り口前でどうしたらいいか突っ立っている麻比呂に礼が椅子を差し出す。  「自分が机を持つので椅子お願いします」  『、、わかりました』    "お疲れ様でした"と礼に挨拶して酔って千鳥足のつばさの腕を引きながら帰っていく二人の後ろ姿を見ていた。  「何がすいませんね、仕事終わりで疲れてるのに手伝わせて」  『別にこれくらい平気です。俺がもらってくださいって言いましたし、、』    礼がリュックを左肩にかけて両手を机を軽々しく持ち上げ"じゃあ行きましょう"と言うと麻比呂は頷いて辿々(たどたど)しくアパートの方向へ歩き出す後ろに着いていく。  

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