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𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟙 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟚 ⑥

 一日降り続いた雨で道路に出来た大きな水たまりが点々とアパートまでの道に続く。足元に目を向け注意しながら礼と麻比呂は机と椅子を抱えてゆっくり歩く。  この時間になると住宅の電気もちらほらとしか灯っていない。机の重さも関係無いとばかりに、いつものペースで坂を登る礼に対し体力の無い麻比呂は苦戦してなかなか歩幅も狭い。  店を出て3分ほど歩き礼が振り返ると真後ろにいたはずの麻比呂の姿がなく、二人の距離が空いている事に気づいて足を止めた。  「大丈夫ですかー?」  『あーはい、なんとか。気にしないで行ってください』  礼が坂の真ん中で目線を下に向け心配そうな声で言うと、疲れた顔上げて荒い息を吐きながら麻比呂が力なく言葉を返す。 その様子を見て机その場に置き坂を下り真比呂に駆け寄った。    「運ぶのここまでで良いですよ」  『いやっ大丈夫です、ゆっくりなら。ってか恥ずかしいな、、体力ないのバレバレだよ』  「誰だってこの坂はツライですよ」  『いつもこの急な坂を登り降りするの大変じゃないですか?』  「これも良いトレーニングになってるんで」  これぞ海の男の模範解答のような返しに小さく何度か頷いてこのストイックさに関心するしかない。身体も考え方も自身との違いを見せつけられた麻比呂は急に恥ずかしくなった。  『半分持つから一緒にあがりましょう』  そう言って椅子の脚を持ち上げて歩き出した。 途中で机を片手で拾ってそのまま進みだし坂を登り切った。少し歩けばアパートが見える。  「もう少しだから頑張りましょう」  『あっ、あとは一人で持てます!』  そして、椅子と机をそれぞれ持ってラストスパートの平坦な道を二人並んで歩く。すると何も話さず黙って歩く、少しぎこちない緊張した空気を察してか礼が先に口を開いた。  「ROCK the Oceanいい店ですね。素敵なお父さんだし」  『……そうですか?うるさいし人使い荒いし、ケチだからバイト代全然くれないし喧嘩もよくしますよ』  「でも喧嘩できる相手がいるのって幸せな事だと思いますよ。当たり前の幸せはいなくなって気づくもんですから」  なんか少し意味深な言葉に聞こえて返事に困った。真比呂はチラッと礼の横顔を見るが顔の表情は変わらない。"普通が一番幸せ"という誰もが言うよく聞く文句を言っただけだろう。      『あの、、話変わりますけど。敬語ー…じゃなくていいですよ』  「え?」  『何て言うか敬語だと、逆にくすぐったいというか慣れてなくて。俺の方が断然年下だし、タメ口で話してください。そのほうが嬉しいです』  「そう言うならー…そうします」  そして着いたアパート前。しばらく見てなかったが久しぶりに近くで見ると以前より劣化が増していて、キツい坂を上ってたどり着いたのがボロボロのアパートなんて罰ゲームか何かなのか。  『……これ大丈夫です?重い物持ってこの階段登ったら抜けたり、、』  「今のところ抜けてないから大丈夫だよ。けど3段目は数日前から変な音がしてるから飛ばしたほうがいいかも」  『えっ!?……怖っ、、』  そう軽く言いながら錆びれた外階段の3段目を大股で飛ばして2階まで上がった。礼はポケットから鍵を出してドアを開け、狭い入り口をギリギリに机を通して中に入れる。  「とりあえず大丈夫そうだな。あっ、中どうぞ見ての通り机がギリギリ通るくらいの入り口だから気をつけて」  『、、お邪魔……します』  

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