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𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟛 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟠
「今日31℃、水温23℃。天気は快晴。潮の流れは沖へ毎分1m。それから水深は……」
ライフセーバーの1日は遊泳客が来る前の朝早くから始まり、まず初めに行うのは海のコンディションチェックだ。天気・波の高さ・潮流など実際に目で確かめ遊泳が可能かどうか決定する。
東はサングラスをおでこまで上げ、ライフセーバー全員で共有するボードに書き込む。
「よしっ!今日も問題無しっと」
「光基!朝早くからご苦労様っ」
背後から明るい甲高い声が東の背中に当たる。
振り返るとウェットスーツを腰まで下ろしてオレンジ色のビキニ姿、そしてサーフボードを手にした女性が笑顔で立っていた。
「ん?おっ誰かと思ったら、三葉じゃん。あれその格好って事はー…」
「明日試合だから最後の仕上げにきたの」
「少し前につばさから怪我したって聞いたけど大丈夫!?」
「うん、もうバッチリ。一昨日から海に復帰してるけど1週間も波に乗ってないとダメね、心なしか肌が白くなった気がするわ」
東とそう下の名前で呼び合い親しく話すのは茂木三葉 。その姿の通りサーフィンをこれなく愛する波乗り女子だ。普段は須野のサーフショップで働きながら、プロサーファーとして試合や大会に出場している。
10日前サーフボードに付けて舵 取りの役目をしてくれるフィンで足を深く切ってしまい、数針縫う怪我をした。何とか2日前から沖へ出て明日の大きなサーフィンの大会を明日に控えて、最後の調整をしている。
「三葉の復活力には頭が下がるよ。俺なら明日の試合出場は諦めてるだろうな」
「褒めてくれてるんだ。ありがと」
「それと今日は最高の波乗り日和だよ」
「オッケー!それじゃ行ってきます」
スタスタと砂を蹴って歩く三葉のサバサバとしたカッコイイ女子の後ろ姿。しかし6年前までは隣にはもう一人いつも一緒に並んで歩く姿があった。同じような褐色肌をした腕は三葉の腰に手を回して笑顔で笑い合う。
東も仲睦まじいそんな光景を羨ましく思うほどお似合いすぎる二人だった。
一人になった今でも三葉のサーフィンへの思いは変わらない。この海と波が二人愛し合った日々をいつでも思い出させて永遠にしてくれる。
沖で波に乗る三葉をチラチラと見ながら手を動かして仕事を始める東。そうこうしていると一番初めに到着した仲間が警備本部に入るなり、大きな声で挨拶をする。"おはよう"と返すと何も言わなくてもテキパキと業務を始め後輩達。
須野の夏が始まって2週間が過ぎ安定した海岸は毎年変わらない夏を満喫している。だけど東の胸の奥に眠る思いは年々増えていくだけだった。
東は三葉に思いを寄せていた。だけどそれを言葉に出してはいけない、行動に移してはいけない。そう思ってもう何年も経つけれど収まるどころか年々増す気持ちはいつまで続くのか。
もどかしく過ぎゆく季節はもう終わりにしたい。
「救命道具確認まだですよね?俺行ってきます。東さん……聞いてます?」
「ん?あぁ悪いっ、頼むよ。今日は休日で快晴だから遊泳客も来るの早いだろう」
「そうですね。早めに準備しましょう」
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