25 / 55
𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟛 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟠 ③
『ごめん、準備出来た!』
後部座席に乗り込んだ麻比呂は何故かちょっとよそ行き用のオシャレなシャツにタイトなジーンズ姿。
つばさは運転席から後ろを振り返り、上から下までじっと麻比呂を見て笑いながら言う。
「おい麻比呂、何ちょっとオシャレしてんだよ〜暑くねぇか、それ?」
『えっ、別に普段通りだけど』
「嘘つけよ。しばらくTシャツ短パン姿しか見て無かったけどな!あれか〜?ナンパ目的なら連れていかねぇぞ」
『違うって!もういいから早く出発!』
前を向けと言わんばかりに、つばさの肩を押してシートに保たれた麻比呂。"はいはい"と前を向いてエンジンをかけると起動したカーナビは行き先のマップと一時間半の所要時間を伝えていた。
まだ空いている道路を順調にスムーズに進んでいく車は高速に乗った。咄嗟の思いつきで車に乗りこんだ麻比呂は行く先を知らない。
高速道路の上の標識で、何となく向かっている場所に勘づいて麻比呂は三葉を見て行った。
『会場って神奈川のー…浜津井 海岸?』
「そうよ。麻比呂覚えてる?一緒に行ったことあったよね」
『うん。もちろん覚えてるよ』
「おじさんの車でさ今日みたいに朝早くからみんなで行ったよね。おじさん、おばさん。私と麻比呂とー…あと樹未斗」
『お兄ちゃんと三葉ちゃんが初めて一緒に出た大会だったっけ?』
三葉は窓の外の遠くに目を向けながら"うん"と頷きながら言った。
『そういえば緊張ほぐす為に父さんがロックの曲を爆音でかけてさ、着く頃にはなぜか皆んな疲れてたよね』
「そうそう!大声で歌うから知らない洋楽の曲をいっぱい覚えちゃってさ。樹未斗はサーフィンはあんなに上手いのに歌はめっぽう苦手!、、だったね……」
蘇ってくる思い出をすらすらと麻比呂と共感しながら嬉しそうにに話す三葉だが、思い出せば出すほど声のトーンやスピードが落ちていく。
「楽しかったな、、あの頃」
6年と言う時間は短いのか長いのか曖昧な数字。大切な人を失った者に思い出の時効はなく、その季節その場所が巡らせる記憶は時に意地悪に攻撃してくる。
麻比呂だけではなく三葉もまだ苦しんだ6年。
「おいおい!しんみりするなって〜って!俺の知らない話で盛り上がんなよなっ!まーけど思い出の海ならやっぱ最高スコア出さなきゃじゃん?」
「何それ?プレッシャーかけてる?言われなくて優勝狙ってるから」
「あーそれは失礼しました!やっぱ三葉はすげぇわ、樹未斗が選んだだけある」
サーフ道具をいっぱいに積んで和んだ車内に懐かしさを感じた麻比呂。いつからか気がつけば須野の海と祖母の香川の海しか見なくなってしまっていた。
ましてやサーフィンの大会なんて絶対に行く気なんて無かったのに何故足が動いてしまったのだろう。
「よっしゃ着いたぞ!」
カーナビの狂いはなく予定時間通りぴったりに着いた、ここは神奈川県浜津居海岸。
会場本部のテントから歩いて数百メートルの駐車場に停車させる。大会をより盛り上がらせるようなギンギンに照りつける太陽の下で大会出場者の車がずらりと並んぶ。
車を降りた麻比呂もその光景に自然と胸が高鳴った。
「なぁ荷物運んでおくから先に受付行ってれば?受付並んでるみたいだし時間かかるだろ」
「ホントに?ありがとう、助かる」
「大丈夫!ここにちょうどいい荷物持ちが1名いるからっ」
『別に荷物持ちとしてきたわけじゃないんだけど!けど三葉ちゃん行ってきてよ任せて』
「麻比呂もありがと!じゃ2人とも頼むねっ、先行ってる」
そう言って並んだ車の間をスッーと小走りで海岸へ向かって走って行った三葉。
「んじゃ上のサーフボード先に下ろすか。右側頼んでいいか?」
『うん、わかった』
サーフボードを固定するベルトを左右に分かれた外していく。ガッチリとキツく固定されているベルトを外す事さえも、麻比呂にとっては数年振りの作業で少し手こずってしまう。
そんな様子を悠長に手を動かしながら見ているつばさがゆっくり口を開く。
「、、なぁ麻比呂。ホントのところどうなんだよ?」
『ん?何の事?』
「いやっだから、なんで急に一緒に行くなんて言ったんだ?」
『別にー…理由なんてないよ。どうせ今日は休みで1日中暇してたから。それだけっ、気晴らしみたいなもん』
「ホントに?今まで俺や東が誘っても来やしなかったのに。何かあんだろ〜?」
『ホントにないって!』
「ほ〜ぉ〜けど俺にはなんとなくわかんだぞ。アレだろ、来た理由は!浦島太郎だろ!?」
外したベルトを手にし麻比呂を指差して自身満々に声を上げるつばさに、ぐらつくサーフボードを支えながら言葉の意味が分からずキョトンとした顔を向ける。
『へ?浦島、、太郎ってー…?』
「あっ悪い。ついいつもの呼び名で言ってしまった、、アイツだよ?浦上周太朗!今日この大会出場するみたいじゃん」
ともだちにシェアしよう!

