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𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟛 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟠 ⑤
ウィメンの第3ヒートが三葉の出場時間。
試合の組み合わを指すヒート、1ヒートは5人までの対戦人数で30分程度の制限時間内で出来る限り多くの波に乗り、その内の点数が高かった2本の合計点が得点になる。
なるべく多くライディングをし高度な技を成功させる事が勝利の為には必要。
「いいじゃん、他の選手の様子見ながら波の状況も把握できるし」
「そうね。ヒート表見る限り今日は出場選手も多いみたいだし、今日はいつもよりカメラ持ったマスコミも多い気がする」
「はは〜ん、もしかして緊張しちゃってる?」
「バカ言わないで。私はオーディエンスが多いほど燃えるタイプだからっ」
「参りました〜」
そんな三葉とつばさを会話を受け流すように聞いていた麻比呂はヒート表のある部分に目を向けていた。
"ロングボード メン"のヒート表にずらっと名前が並び上から順に目を凝らして、ある名前に探しているようだ。
「それじゃ私は準備と知り合いに挨拶してくるから終わってから、またね」
「おう!観覧席から応援してる」
「麻比呂も久しぶりのサーフィンの試合楽しんでね」
『えっ、!?あっうん!頑張って』
三葉は必要な荷物とサーフボードを二人からもらい抱えながら出場者控え室へ自信に満ちた表情しながらスタスタと歩いて行った。
「ホントすげぇよな三葉は。俺は今だに大きな大会や初めて来る海には緊張するけどなぁー…っておいっ麻比呂!いつまでそれ見てんだよ」
『ああごめん、何か言った?』
すぐ目線をヒート表に戻して集中している麻比呂の後ろから、こっちへ向かってくる集団が視界に入り先頭を歩く見知った顔にニヤッとして麻比呂の肩を叩いた。
「お〜っと!ちょっ麻比呂。あっち見てみろ」
『何!?あっちって?』
「いいから後ろだよっ!後ろ!」
『、、後ろ?』
後ろを振り返った麻比呂は集団を見るなり背筋をピンっと伸ばしてゆっくり中央を闊歩するその姿を凝視した。
「いっぱい引き連れて、まさにスターのお出ましって感じだな」
"第5ヒート 浦上周太朗"の文字を手にした紙から頭に入れた直後にまさに目の前に現れたのは本人。
ファンであろう女子達とマスコミにカメラを向けられながらぞろぞろと砂浜を歩く姿に周りの誰もが何事だともの珍しく見ている。
こちらに向かって距離が近づいてくると自然と下がって道を開けた二人。
すれ違う瞬間の浜辺や沿道からの声援に応える浦上は堂々とした立ち振る舞いで、麻比呂が雑誌や映像だけで見ていた数年間のサーファーの中でダントツに興味をかきたてられる相手だった。
そのまま集団は受付テントへ向かっていく。他の出場者と同じように受付を済ませゼッケンをもらう浦上。間違いなく今日の大会一番の注目選手で観客もメディアも楽しみにしているであろう。
「へぇ〜数年前に浦島太郎を初めて大会で見た時は全く注目なんかされてなかったのに、、あれよあれよと言う間に気付いたら大スターになってんな」
『……ねぇ、つばさくん。今アイツ俺のことみてた?』
「は?何、浦島太郎が?いや見てなかったと思うけど何でそんな事聞くんだよ?」
『だよね、、ごめん変なこと聞いて』
「まぁ樹未斗の事はもちろん知ってるだろうけど、さすがに麻比呂が弟だってこと知らないだろうし。何だよ〜!アイツが気になるなら話しかければいいじゃん」
『いやいい。それじゃダメだから。ちょっとさお腹空いたから、そこら辺で何か食べ物買ってく!先に観覧席に行ってて』
「お、おう分かった。すぐ来いよな」
麻比呂は順調にサーフィンの世界を駆け上っていく浦上を妬ましく、だけど本当は羨ましく思っていた。
だけどそんな感情抱くまでもなくまだ戦う同じステージにすら立てていない事をこの時に痛感した。
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