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𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟛 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟠 ⑦

 ロングメン第5ヒートは強者揃いのヒートとなった。浦上だけではなく、名の知れたプロが名を連ねたヒートにメディア関係者のカメラも選手達を(とら)える。  スタートを告げるホーンの音とブルーフラッグが振られて沖へと走り出す。第1ラウンド最後のヒートにして最大の注目ヒートと言える。  「少し風が強くなってきたわね」  朝昼夜で気候がコロコロと変化しやすい真夏の海、もちろん水面のコンディションも一定ではない。時間が経つに連れなって海風が吹きはじめ、サーファーにとってまさに腕の見せ所といった場面が訪れた。  パドリングで水面の様子を伺いながら積極的にライディングを数本するもなかなか得点伸びない攻防戦が続く。  "3.1""5.6""4.8"と得点ボードに並ぶ点数はどの選手も高得点とは言えない数字が続く。  「浦島太郎もこれじゃ厳しいか〜」  『今、波の状態良くないの?』  「単純に風が強いと波の水しぶきが自分の方に向かってきて、テイクオフ時に前が見えずらくて上手く乗る事が出来ないからな」    そんな中、機会を今か今かと待っていた浦上の身体がボードの上に立った。風は止む事なく波を刺激し荒らしているが、お構いなしに挑む姿勢に誰もが釘付けになる。  そして今大会一番の大技と言える技が出た。  「うわっ、エアーかよ。着地も完璧」  「しかもこのコンディションよ、流石ね」    通称エアーと呼ばれるエアリアルと言う非常に難易度の高い技。波の一番高い部分からジャンプするテクニックで、派手なアクションとバリエーションの多さにサーファーのみだけではなく観客も観たい技の一つだ。  思わず着地と同時に小さくガッツポーズと笑みを見せた浦上と一気に観客の声援に包み込まれた海岸。  そして出た数字は"9.2"と最高得点だった。  制限時間30分が終わり、言うまでもなく第二ラウンドに進出したのは浦上周太朗。浜に戻ってきた浦上にカメラのフラッシュが降り注ぎ、あっという間に再び人だかりになる。  「やっぱやってくれるな〜いいもん見たわ!俺も負けてらんない、頑張んないと!なぁ麻比呂どうだ?初めて浦島太郎を観た感想はー…って聞いてるか!?」  群衆の真ん中でにこやかな笑顔を見せる浦上から目が離せないでじっと見つめている麻比呂には、つばさの声は届いていない様だ。  浦上のライディングを見ている最中、麻比呂の心はぐるぐると多くの感情や光景が現れる。 それは周囲が驚きや興奮や感動を声や表情に出すとは違いむしろ真逆の焦燥や嫌悪。  そして何より嫉妬の感情が脳を埋め尽くした。  第2ラウンド、第3ラウンド、セミファイナル、ファイナルと終盤につれてさらに盛り上がりを見せる今大会は無事にすべてのヒートを終えた。  結果、三葉はウィメンで優勝。そしてロングボードメンでは勢いそのまま浦上周太朗の優勝で幕を閉じた。

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