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𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟝 ③

 《《《部屋の電気つけっぱなしだな。それどころか玄関の鍵も閉めてないじゃん。  お父さん、お母さんに別れの挨拶してないや。俺が突然いなくてもお店回せるかな。きっと怒られるだろうな。何の親孝行もできずにごめん。  死ぬ前に一度位ちゃんとした恋愛をしたかったな。中学生の時に隣のクラス女子に告白されて凄く可愛い子だったから付き合ったけど、性格が最悪過ぎてそれ以来女子は信用していない。  大会で表彰式に立った時のスピーチは考えてあるんだ。発表する機会は残念ながら訪れなかったけどいつかそんな日が来るならまた人間に生まれて変わってもいいな 》》》  死ぬ瞬間に人は過去、現在、未来全てを走馬灯のように多くの事が浮かび上がるらしい。 それにとりわけ人生を後悔しながら生きた人は、満足して生きた人よりも多くの事柄が浮かぶって話だ。    俺の生きた22年はどちらの人生だったか ─  『、、痛、、ッ……ここー…?』  「あ〜まだ無理に動かないでそのままで」  『あれ、、、俺もしや生きて…る?』  ぼやっとした視界には現実世界を物語る様なわかりやすい年期の入った天井に丸い古い照明。 身体に掛かった柔らかい布団と漂う消毒液の様な匂い。そして誰かの話す声がすぐ近くからこちらに向かって喋ってる。 これだけは断言できる、ここは天国ではない。  身体は鞭打ちの様に痛むが目だけは不自由なく動かせるようで、声のする足元の方に視線を下げると近づいてくる手が顔の前に出された。    「麻比呂くん、これ何本?」  『、、、さんー…3本』  「視覚と聴覚は正常。ここはどこかわかる?」  『えーっと、、あなたの家』  「あなたじゃなくて、正確に名前フルネームで言ってみて」  『真壁……礼」  「よし、記憶力も問題ないね」  医者に診断されているかのように淡々した口調で質問をポンポンと投げかけているのは麻比呂の答えた通り、礼でこの場所は一度来た事のある礼のアパート。ボロアパート具合が返って印象的で強く覚えていたのもすぐ答えられた。  『あの、、俺、何でここに?』  「んー。その質問に答えるなら、救助後に蘇生処置して意識も呼吸も戻ったのを確認の上ここに連れて今に至る。どう?これで納得いく答えかな?」  『あぁ、、つまり助けてもらったんですね。ありがとう……ございます』  窓から見える白い薄明の空からおそらく早朝だろうとわかった。しかしここ数時間の間の記憶はさっぱりない。海に入ってからしばらく荒い波に向かってベストなタイミングの波を待っていた、そこまでの記憶はある。状況からしてなんとなく察しはつくが、とにかくまだ生きてるらしい。  どうして助けられたのだろう。どうして生きてるのだろう。どうしてあの人なんだろう。 頭をループする"どうして"の連鎖は止まらない。  「それじゃ次はこっちから質問していいかな?」  『え、、、はい』  「何であんな状況の海に、しかも深夜に一人で入ったの?」  『それはー…言いたくないです』  目を逸らして子供が拗ねるように頑なに閉ざし壁の方に顔を向けた麻比呂。狭いアパートで二人きりの部屋では背を向けても視線はすぐ側にあり、変な空気に包まれる。  「そう。まぁ無理には聞かないけど、それなら海で見つけた落とし物も誰の物か分からないから持ち主が現れるまで本部で保管するしかないかぁ」  『ん?!、落とし物……?あっっ!!ボード!お兄ちゃんのサーフボード!!』  痛む上半身を起こしてジタバタと体を(ひね)りながら部屋中のあちこちを見渡してサーフボードを探す。こんな狭い部屋なんて数秒で部屋全体を見渡せて無いのも一目瞭然。  もしかして流されてしまったのかと麻比呂は立ちあがろうと布団を剥いで大きな絆創膏を貼った手を畳につくと激痛が走った。  「痛、ッたっっ!!」  『だからまだ安静にしてって。わかったよ持って来るから』  「あるんですね!良かった、、」  「別に意地悪して隠してるわけじゃないよ、中じゃ置き切れないから外に置いただけ。ちょっと待ってて」  そう言って立ち上がった礼は玄関の方へ歩きギーッと錆びた音を立てるドアを開けて外のポストの横に立て掛けたサーフボードを抱えて戻ってきた。

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