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𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟝 ⑦
朝ご飯を済ますとすぐに着替えてボードを持って家を出た。海岸まで田畑や田園風景を横目に歩いていると、それ違う町の住民が物珍しそうな顔して2人を目で追う。
『、、なんかすごくジロジロ見られてる?』
「珍しいんだよこの辺りでサーファーはいないだろうからね」
『そうなの?何で』
「正直、瀬戸内海の海は波乗りに適しているとは言えないしね。サーファーはみんな日本海側に行くよ」
『じゃダメじゃん、楽しみにしたのに』
麻比呂はこの海でサーフィンするのは初めてで須野の海以外を知らない。麻比呂がっかりした顔を見せるとおでこに乗せたサングラスを笑いながら奪った樹未斗。
『あっ、ちょっと返してっ』
「返してってこれ俺のだろ。部屋から勝手に持ってきたな?」
『だってそれカッコいいもん、頂戴っ!』
「ダメ。麻比呂には似合わないよ」
まだあどけなさが残る中学生、体格も実力も備わっていないが兄への憧れだけは一人前。身に付けている物や行動を真似したくて堪らない。
『それとこれも付けてるよ!』
「まだ付けてたのか。よく錆びないな」
ギュッと詰まった首下のファスナーを10センチ程ずらし手を入れて、取り出したのは太陽の形をしたネックレス。3年前に樹未斗が国際大会に出場した際に付けていた物で、その大会でライバルに差をつけたダントツの高得点で見事優勝を果たした。
太陽には多くの力が秘められて言われている。サーフィンの様に自然を相手にしたスポーツにとっては特に関わり深い。
それから1年後、麻比呂がサーフィンを始めた記念として同時にプレゼントをした。かっこよくて縁起が良くてパワーが詰まったこのネックレスは、その日からいつも身に付けている麻比呂にとってお守りみたいな物となった。
いつか兄のように世界で活躍するプロサーファーになって兄弟で表彰台に立つことを夢見て。
海岸に着くと黒い雲は数キロ離れた空に居て、ここが雨風に覆われるのも時間の問題に見える。
晴れていれば対岸の島々がくっきり見え、その風光明媚を求めて来る人も多い場所。
この日は悪天候の予報もあって人はいなかった。
『ほんとだ、、ほとんど波立ってないね』
「そんな顔するなって、仕方ないさ。それにまだ麻比呂は基本スキルがやっと身に付いたレベルだからこれくらいの緩くてビーチブレイクで乗るのが丁度いい』
海底が砂の浅いサーフポイントを意味するビーチブレイクはうねりもパワーも小さく、いわゆる初心者向けには良いとされている。そう言われた麻比呂は何だか悔しくて口を尖らせて言い返す。
『でもさ、つばさくんが他の人より上達早いって言ってくれたよ。センスあるって』
「そうだな。だけどセンスよりもっと大事なものがある。何か分かるか?」
『んーっと……あっ、努力!?』
「それももちろん大事だけど1番大事なのは続ける事、継続性だ」
『継続性ー…わかった!俺、何があってもサーフィン絶対辞めないよ』
麻比呂の輝いた目の決意と情熱には嘘は無かった。そんな風に兄弟二人これからも永遠に波に乗っていられると思っていた。
「だな、約束だ。それじゃ始めるか」
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