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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟞⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟠
世間的には夏休み、須野海岸にも家族連れや学生達のグループが増え始めると今までより身を引き締めて監視する必要がある。
まさに去年の大学生の死亡事故を招いてしまった事を教訓として話し合いが行われ、今年から夜のパトロールを導入した。
いつもは日が暮れて遊泳時間を過ぎるとセイフセーバーの就業時間は終わりだが、この日は東が日の出まで警備本部室で朝まで海岸を見張る。
海岸をぐるっと一周パトロールが終わり本部室へ戻ってきた東は椅子に座るとタオルで流れてくる汗を拭いた。フゥと一息つき顔を包み込むようにタオルをのせて背もたれに体を預けた。
穏やかな波の音が室内に流れてくる。いつも活動する昼間の賑やかな海岸とは全く違う静かな熱帯夜の海。
すると開いたままのドアをコンコンッとノックする音が聴こえ、タオルを下ろして反応すると視線を向けた先に三葉の姿があった。
「光基!ご苦労様っ」
「ん?三葉?こんな時間にどうしたんだよ」
「Rock the Oceanに行ってたの。それで帰りに通ったら電気ついてたからもしかしてと思ったけど。何、ライフセーバーもとうとう夜営業始めたの?」
「夜営業ってお店じゃなんだからさ!ここは夏休みの間しばらくは夜中も自員を置くって決まってさ。それより中入ったら?残念ながらお酒もおいしい料理もないけど」
冗談混じりに笑いながら招き入れるとタンクトップとハーフパンツのラフな格好をした三葉が、久しぶりに見る本部室の中をぐるりと見渡しながら入った。
「俺一人だし狭いけどその辺座って」
「うん。あっそうだ、ねぇ訊いた?麻比呂またサーフィン初めたって。さっきまでお店でおじさんとおばさんとその話で盛り上がってたの」
「知ってる、ちょっと驚いた。ただそのせいでつばさがいつも朝早く起こされてるって愚痴こぼしてたよ。やる気があるのは嬉しいけど俺を巻き込むなって」
「あはっ。だけどその代わりRock the Oceanの料理いつでも食べ放題だって」
「何だちゃんと見返りあんじゃんか。つばさの奴、文句ばっかり言ってたのにさ」
「でもホントに良かった。麻比呂もうこのままサーフィンを忘れちゃうんじゃないかって思ったけど、ちゃんと情熱は残ってたんだなって、、」
麻比呂のサーフィン再開の話は瞬く間に広がり周りの誰もを驚かせ喜んだ。
「それにしてもずいぶんと綺麗に整頓されてるのね。もっと雑然としてると思ってたけど」
「あぁ今さ協会の人が来ていてここでで一緒に仕事してるんだよ。その人がいるからかな?」
「そうなの?協会の人って事は偉い人?」
「偉いかどうかって言われたら難しいけど、上司にはなるかな。俺らと歳かわらない若い人だけど」
三葉はふーんと相槌を打って壁に掛かった御守りが目につくと見覚えがあるのが気になって立ち上がって近く寄る。
「あれ?これって樹未斗とつばさと光基、三人で揃って買ったってやつだよね?つばさの車にもあったし樹未斗の部屋にもー…」
「そうだよ。海は素晴らしいけど時に残酷にもなる、だから持っていようって」
手の平に置いて指で撫でるように触れた三葉。海があってサーフィンがあったからこそ樹未斗に出会い時間を共に過ごせた。だけどそんな未来を奪ったのも海と言う存在だった。
だけどどうしても海の側を離れられない。
海に惹かれて海に生かされる者の性分だろう。
三葉がお守りを戻そうとした瞬間、背中に当たる温かい感覚とわずかな重さ。腰に回されたたくましい腕は間違いなく東の腕。
「ちょ、っ、光基!?」
「俺もこの数年前に麻比呂のように前に進めないでいた」
「何言ってんの。光基はしっかり仕事をしてキャプテンとして須野を守ってる。大会で成績を残してるし。私は尊敬してるよ」
「俺ー…三葉の事が好きだ。付き合って欲しい」
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