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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟞⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟠 ②

 それは突然の告白だった。暗い海岸で唯一明かりが点いている警備本部室内は独特な雰囲気に包まれた。  「光基、、それ冗談だよね……?」  「本気だよ。ずっと言いたかったけど言えなかった。三葉の中にはまだ樹未斗が消えずにいる事も分かってたから」    愛する恋人を失ったあの夏。それから恋愛に前向きにはなれずに過ぎていった6年。"他の誰か"なんて考える事も出来なかった。 東の腕に抱きしめられる感覚にさえもあの頃の樹未斗の温もりと重ね合わせてしまう。  「何でー…私なんてサーフィンばかりして肌も黒くて全然家庭的とかじゃないし」  「知ってる。それも全部好きなんだよ」  「それに、、いつまでも昔の恋愛引き()ってるような面倒な女だよ」  「いいんだ。樹未斗の事忘れてなんて言わないよ。ただ少しだけでいいから三葉の将来に俺が入る隙間がないか考えて欲しい」  三葉を抱きしめる力が強くなる。数年間心の奥に秘めていた思いをやっと口に出し伝えられ、胸の(つかえ)が下りた事とそれに対する三葉の答えに緊張感が身体を包む。  数時間ただ静かな時間が流れると、男女数人の笑い声が外から遠くに僅かに聞こえて二人は反応した。夜中でも夏の海岸には開放的な気分で人がやってくる。やはり自員を置いて正解だったかもしれない。  「ごめん。俺見に行かないと」  「あっうん。そうだね、、行ってきて」  「あのさ、、もし良い返事がもらえるなら俺が戻って来るまでこのままここにいて。もし駄目なら、、何も言わず帰ってていいから」  そう言うと東は腕を外して三葉の身体を解放すると部屋を出て声する方へパトロール用の懐中電灯を持って小走りで走っていった。    真っ暗な浜辺を歩いていると手にしたライトが当たる先に、夏休み中のを満喫している高校生グループがいた。どうやら買ってきた花火をここで打ち上げるつもりだったらしい。 そんな高校生達を見て東も自分自身ヤンチャをしていたこの年齢の時も同じ様に、夜中家を出て少し悪いことをしている感覚にワクワクした事を思い返す。  しかし未成年の深夜の外出や花火禁止場所で行うことを今の立場としては容認する訳にはいかない。 薮から棒に叱るのではなく、同じ目線で諭すように注意すると少年少女達は納得したように自宅に帰ると約束して立ち去った。  そして来た道を歩き警備本部を目の前に見えて明るくなってくると足元を照らしていた懐中電灯を切る。  そして戻った部屋、そこに三葉の姿はなかった。  ◆◇◆◇◆◇  「そういう訳で今日明日はキャプテンの東が大会に出場の為不在です。何かあれば俺か真壁さんにお願いします。今日1日も無事故目指してよろしくお願いしますっ!」  気温35度。雲一つ見えない炎天下の須野海岸につばさの気合いの入った挨拶でまた一日が始まった。まだ朝10時にも関わらずこの夏一番の気温と遊泳客数を更新した土曜日、ライフセーバーの数もフルメンバーで対応する。  監視台に備え付けてある届いたばかりの新品のレスキューボードの入れ替え作業しているつばさに礼が話かけた。  「手伝いますよ」  「あっありがとうございます!」  「そうだ、東さんの今日の大会って競技会ですよね?」  「あーそうです。あっそっか!ライフセービング協会主催だから真壁さん当然知ってますよね。東めちゃくちゃ気合い入って練習してたし、多分いい結果出して戻ってくると思うんですよねー」  「だけど東さん朝方までここにいたはず……?」  「あぁ大丈夫!東の体力は化け物級で疲れとか知らないでっ」  ライフセービングの訓練や技術をスポーツ化させたものをライフセービング競技と呼び、いくつもの種目に別れ個人やチームで競い合う大会だ。 東もいくつかの競技に出場するため、日ごろのパトロール業務とは別にトレーニングを積んでいた。  「つばささんも大丈夫ですか?」  「ん?俺ですか?」  「毎日の様に麻比呂くんとサーフィンしてるって聞きました」  「そうなんですよ!突然サーフィンまたやるなんて言って朝早くから家に来て教えてくれって。どういう風の吹き回しなんだか、何か知ってます?」  「、、さぁ、どうしたんでしょうね……」  礼の頭にはあの夜中の事故が浮かんでいた。もちろん誰にも話してはいない。海岸であった事故などの出来事はすべて報告する義務になっているが、パソコン内の報告ページは何も記入されていない白いままだ。  「あれ?あ〜来ましたよ、噂をすれば何とやら」  つばさがそう言って指差す先に麻比呂が歩いてくる。いつもの手ぶらでラフな格好のお店出勤スタイルだ。  「麻比呂どうしたんだよ。サボってないで早く出勤しろよ!こっちは忙しいのっ」  『別につばさくんに用はないよ。礼さんに話があって来たの』  「おい、何だよっ!、、ってか礼さん?待って待って!麻比呂いつから真壁さんを下の名前で呼ぶ様になったんだよ?」  『うるさいなぁ。別に何でもいいじゃん。それより礼さん、何時ぐらいに来れそうですか?』  「そうだね、6時頃には行けると思うよ」  『もし家の場所わからなければ連絡ください』  「大丈夫だよ、須野の街にもだいぶ慣れて地理も頭に入ってる」    つばさの目の前で親しげに笑い合いながら話す2人をじっと見る。ただ話す間柄なら理解出来るが話を聞いている限り、家に行くとかどうとか。頭をひねりながら話を聞いているつばさには目もくれずにそのまままお店の方へ歩いていった。  「真壁さん、、麻比呂の番号知ってるんですか?しかも家に行くってのはー…」  『今日麻比呂くんが家に来ないかって誘ってくれてお邪魔しようと思ってて』  「そうですか、、何か麻比呂変わったな」  腑に落ちない顔のまま手を動かしていくつばさは礼のテキパキとした手捌きを見ていた。作業をする礼の横顔に、つばさもまた一瞬どこか樹未斗の面影が見えた気がした。樹未斗がよくサーフボードをメンテナンスする時の雰囲気によく似ていた。    この時もしかして麻比呂は礼に樹未斗を重ね合わせてるんじゃないか、この人はみんなの未来を開く鍵になるんじゃないかと直感的に感じた。  まさに夏に相応(ふさ)わしく突然に激しくやってきては、爪痕を残して去ってゆく台風の様な存在かもしれないと。  

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