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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟞⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟠 ③

  夕方4時半、父親がRock the Oceanの昼営業の最後の客を見送った。それと同時にお皿を流しに運んだ麻比呂は、一仕事終えエプロンを外してくつろぐ父親の横を足早に通る。  『んじゃ俺帰る、用事あるから』  「ん?用事って何だよ」  『あーそうそう。家に人呼ぶから、早く帰ってきたりしないで』  「おいおい!そう言われると益々気になるだろ〜まさか女子じゃないよな?女子なのか!?女子だろ!!」    滅多に家に人を呼ぶ事は無い麻比呂。22歳と言う歳を考えると浮いた恋話の1つや2つあってもおかしくは無い。高校卒業してからは家とお店の往復のみだったが、サーフィンを再開して以前に比べ関わる人も多くなったはず。 そんな麻比呂の行動を嬉しく思ってふざけ半分で言った。  『何でいつもそうなるわけ?違うよ、礼さん。高瀬さんのアパートにいるライフセーバーの』  「何だそれならそう言えばいいだろ、意味深な言い方するからっ。それで何だって真壁くんが家に?そんなに親しくなったのか?」  『あー…うん、まあね』  「家に呼んで何すんだ?」  『別に』  粗雑に返事を返してそそくさと店を出た。特別家に招いて何をしたいなんて考えはない。 何もしなくていい"お兄ちゃんが家に帰ってくる"そんな気持ちだけで嬉しくて堪らない。  家に戻るとすぐに迎える準備をと掃除を始めた。入るであろう自分の部屋とリビング、あとは樹未斗のプレハブ小屋をチェックする。 とは言え整理整頓が好きな母親のおかげで、片付けが必要ほど乱れてはいない。ただそわそわする心を落ち着かせる為の行動だ。  『あと一時間ちょっと。食べ物は来てからデリバリーすればいっか。あとはー…』  服装はこのままいいかな?とクンクンとTシャツの首元を摘んで匂いを確かめたり、昔の写真アルバムどこにあったかな?なんて初めて出来た彼女を家に連れてくるような思春期の男子の心情を今更なら味わっていた。    スマホの着信に意識を向けながら過ごす時間はあっという間で、気付けば約束予定の18時になっていた。窓から外を覗いてもそれらしき姿は見えず、メッセージ送ってみたがすぐに既読にはならない。  『忙しいのかな、、?』  電話も掛けてみたが呼び出し音が鳴るだけ。 じっとしていられなくて思わず外に出て道路の真ん中に立ち人影を探した。 待ち切れない気持ちが一歩また一歩と足が無意識のうちに海岸に向いて動いていた。  歩きながらもう一度電話を掛けてみるが一向に出る気配はない。すると背後からサイレンの音が聞こえて徐々に大きくなる。振り返ると同じ須野海岸の方向へ向かう救急車がけたたましく真横を走り抜けた。  その瞬間何かがあったのかとゾワッと胸を昂らせた。そして息を切らして海岸に着いた時には辺りは騒然としていた。 遊泳客が野次馬のように集まって囲んだ中に水着姿の小学生、男児3人がグッタリと完全に認識が無い状態で横たわっていた。  そして救急隊と一緒に救命処置をするライフセーバーの中に礼の姿がある。もうすぐ日没時間になろうとしている須野海岸が一変、緊迫した空気に包まれていた。  群衆の隙間から心肺蘇生が行われ救急隊とライフセーバー達の連携し合って人工呼吸やAEDの機械を使い、大きな声が飛び交っている。 そしてしばらくして担架に乗せられた男児達が順番に車内に運び込まれ、最後に目の前を礼が通り過ぎた。 声をかけることも出来ずただ見守ることしかできない麻比呂。  「病院まで付き添いお願いします!」  「分かりました」  礼は救急隊と一緒に車内に乗り込み、再びサイレンを鳴らしながら救急車は病院へ急いだ。騒然となった海岸の本部室からつばさがマイクでアナウンスを始めると、残っていた客たちも帰り支度を始め現場の混乱は一旦収まった。  『つばさくん!つばさくん!!』  「麻比呂来てたのか?」 状況が知りたくて走って本部室へ行きつばさに声をかける。  『この騒ぎ一体何があったの?あの男の子達大丈夫なの?』  「溺水だよ、かなり危険な状態だ。だけど出来る事は全てやった。後はあの子達が耐え抜いてくれればっ!」  いつになく不安な顔のつばさに状況の悪さがわかる。訓練をしてライフセーバーとして海を守る立場になっても命と隣り合わせの状況が目の前にあると焦りと不安は付きまとう。 いつ起きるかわからない事故は突然にやってくるもの。  『何で礼さん一人が乗って行ったの?』  「発見者は違うけど、あの子達を助けたのは真壁さんだから」  

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