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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟞⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟠 ④

 『礼さんが?』    振り返ると少年達の第一発見者だと言う大学生の新人ライフセーバーが気遣わしげにな顔をして立っていて、仲間に肩をポンポン叩かれながら励まされている。  『ねえ発見者ってあの人?」  「あぁそう。去年試験を受かって昨年夏から来てる子。だからまだ経験は浅いし実際の事故に直面したのも初めてだっただろう」  『しかも三人だもんね、そりゃ慌てるよ』  「一度試験に落ちたけど諦めずに受けてニ度目で合格した子だからな、頑張り屋さんだよ」  『だけど現実は厳しい、、って事か』  麻比呂もそんな新人ライフセーバーの大学生を見て自分と重なるものを感じた。サーフィン再開には思った以上に身体がついていかず、頭の中で思い描く高度なライディングを極めるにはまだまだ時間がかかりそうだ。  早くプロになりたい。樹未斗の記録に追いつきたい。ライバルを負かしたい。世界に自分のサーフィンを見せつけたい。 好きで真剣に向き合っているからこそ自身の実力が伴っていないと現実を突き付けられるとショックも人一倍で自信も無くす。それはサーフィンもライフセービングも同じ事なんだろう。  「でもさ真壁さん、凄かったよ」  『凄い、、?何が?』  「あの小学生達を確保から救助、そして心配蘇生すべてが完璧だった。しかも小学生とは言え三人を同時にな。あのスピードには俺も追いつけなかった。さすがとしか言いようがないよ」  何より速さが求められる救助。日頃からライフセーバーは徹底した身体管理、命を救うプロとしての使命に向き合い行動に移す強い精神力。 そんな理念を実際に身を持って礼から学び、つばさは感服するばかりだった。    『、、そうなんだ』  「それより麻比呂、真壁さんと約束してんじゃなかったっけ?」  『あー…そうなんだけど状況的にそれどころじゃないみたいだし、、礼さんいつ帰ってくるかわからないでしょ?』  「まあな。真壁さん責任ある立場だしな」  『だから今日は諦めたっ』  仕方ないと自信に言い聞かせてそう言った反面、落胆の気持ちが顔に出ているのを隠せない。そんな顔をつばさに見られないよう、頭を下げてサンダルに付いた砂を払い落とすように足を振って誤魔化す。  「でもさアレだぞ。真壁さん、9月初めには須野での勤務は終わりだし、仲良くなるのはいいけどすぐここから居なくなるからな」  『知ってるよ。、、何が言いたいの?』  「何か他人に関心のない麻比呂が珍しく真壁さんに興味持ってるなーって」  サーファーでもない礼と親しくなった理由はあの日の夜の出来事を知る由もないつばさには分からなかった。だけどつばさも麻比呂と同じ事を礼に感じていた。  「何かさ、真壁さんってどことなく樹未斗に似てないか?」  『えっ、、?』  「だからもしかして麻比呂も同じ様にそう思っていて、だから彼に興味があるじゃないかなって」  つばさも樹未斗とは幼い頃に知り合いサーフィンを通して笑ったり喜び合い、一緒にいる時間が多くなると時には喧嘩もし数日間口を利かない事もあった。同じ大会に出場すればジュニア部門で競い合う相手だが、お互いを尊敬し健闘を讃えあった。    「東がいない時に限ってこんな事故が起きてしまって、正直言って真壁さんが居てくれて安心した。全員で救助をしている最中、指示する彼を見て、、何故かそこに樹未斗がいるような気がした。俺がライディングの技で失敗をすると的確なアドバイスくれた樹未斗の姿がフラッシュバックしたんだ」    遠くを見る目でつばさが話していると"つばささーん。ちょっとこっちいいですか!?"と事故現場の確認をしていた仲間から呼び出しがかかる。救助は終わって現場は落ち着いてもまだまだ副キャプテンの仕事は山の様に残っている。 「ごめん!俺行くからっ、またな」  『あ、うん。頑張って』  暮れかかる須野海岸は橙色に染まっていく。 海岸の駐車場からも車がほとんどなくなり道路の街灯が点き始めた。麻比呂は来た道を帰りながらスマホを見るが、相変わらず礼からの連絡はもちろん既読にもなっていない。  「充電、、無くなりそう。いいや別に……連絡してくる人なんていないし」  お預けになった楽しみはまたの機会に。 そんな風にポジティブに考えられればいいけれどこの時ばかりは少しばかり小学生達を責める気持ちが芽生えたりした。  そんな風に考えてしまう自分が嫌いでむず痒くて手を大きく振って走り出した。つばさの言った"すぐに居なくなるからな"の言葉に込められた意味は何なく理解出来た。  お兄ちゃん以上の気持ちは抱かないように。 それだけの事、とても単純で容易い話なだけ。

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