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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ①

 「我々ライフセーバーが存在する理由は何だか知ってますか?青田くん」  「えっ、あっはい。それはー…」  突然名指しで質問を投げた礼。並んだ二列目の端にいたのは、あの日の事故で少年たちを第一発見した新人大学生の青田だ。全員は揃って後ろを振り返り視線を青田へ向けた。  試験を数ヶ月前に合格したばかりでまだ真新しく教科書の内容は頭に入っている。  「水難事故の防止及び水難事故における人命の救助を行う、、事です」  「そうです。つまりその言葉通りに動いてこそライフセーバーと言えます。裏を返せば動けない者は試験を突破したからと言ってライフセーバーを 語る資格はないと言うことです」  「……はい」  一気にその場の雰囲気が凍りついた空気が走る。誰もが礼の言葉の意味を理解して言わんとしている事が分かるからこそ誰も声を挙げられない。 青野も反論の余地もないとばかりに、あの少年達を発見した瞬間に自身の欠点でもある怯弱(きょうじゃく)さが出てしまいすぐに救助の行動に移せなかった事を悔やんだ。  「真壁さん、これは一体何ですか?」  静かに聞いていた東が口を開いた。事故のあの場にいなかった居なかった事で、物を言える立場ではないと一歩引いて耳だけを傾けていたが青田の泣きそうな姿や全員の黙っていられなかった。 その言葉にわずかに眉毛だけ動かせた礼が東の方へ身体を向ける。  「言っている事は理解できますし間違ってはいないと思います。しかしそれをこの場で全員の前で言う必要はあるんでしょうか?青田はまだ現場の経験は少ない新人です。こんな公開処刑みたいな事しなくてもいいでしょう?」  「おいっ、東!」  礼に突っかかる東を止めようとつばさはつい声が出た。まだ冷静な言葉な言葉遣いだが、強い口調で表情も険しい。  「彼は実際の救出経験もなく小学生とは言え、1人で3人は無理があります」  「それが?だから出来なくて当然と言う事を言いたいんですか?」  「全員が真壁さんみたいに知識も経験も多いわけではありませんから。それにこの海岸の事は我々の方が熟知しています、あまり口出しされたくないですね」  急に一触即発なムードが一斉に全体を包む。温厚で滅多に怒ることのない東の普段見る事の無い剣幕に全員が圧倒される。  「東、止めろって!すいません、何かコイツ今日おかしいみたいでっ」  早くも集まり始めた遊泳客もハッキリやり取りの声までは聞こえなくても、何やら揉めてる雰囲気を察してか本部の方をチラホラ見ている。  「そうですか。もし本当にそう考えているなら、東さんもキャプテン失格ですね」  「俺が?それはなぜか聞かせて欲しいですね」  「ちょッ、東いいから!真壁さんもそのくらいに!今は止めて今じゃなく後にして下さい!」  容赦ない厳しい言葉は青田だけではなく東にも向けられる。今でも始まりそうな喧嘩腰な二人を仲裁に入るつばさも必死だ。  カンカンの太陽が二人のボルテージを更に上げる様に照り付ける。頬に伝う汗もお構いなしにグイッと礼に顔を近づけた東は睨む様な目をしていた。  「"命を救いたい"と"救える"は大きな違いです。ライフセーバーは気持ちだけで出来るものではない。キャプテンである以上はそれは見極めてー…」  礼が話す途中で、バッッ!と強くつばさの静止を振り切った東の右腕は、気付けば礼の頬を殴っていた。礼は衝動で身体が揺られ倒れかけたが足で強く踏ん張り足元の砂がバサッと飛び散った。  "あっ!!"とその場にいたライフセーバー、その様子を見ていた遊泳客の声でどよめいた。 まさかあの東が手を出し人を殴るとは!? そんな信じられない目の前の光景に仲間達は驚きのあまり一瞬凍りついた。    「バカっ!東!!何やってんだよッ、正気かよ!!」  

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