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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ③
『えっ?殴り合いって何かの間違いでしょ?』
「そこまで詳しくは聞けなかったけどな、二人が騒動起こしたのは確かだし処分も本当だ」
『そんな、、ッちょっと、高瀬さんお店お願いしますっ!』
「えっ、お願いって!?待てよっッどこいくんだ麻比呂!!」
高瀬を置いてお店を出て行った麻比呂。ぽつんと取り残されて余計なこと言ったかな、なんて思ったりもしたがまさか麻比呂があんな血相変えて出て行くなんて思わなった。
高瀬は麻比呂を幼い頃から見ているが、樹未斗の事故以来は表情を表に出さない何にも冷めた少年になっていた。どこにも生きる術を見出せないと絶望に駆られていたあの時期から6年。
それが突然、アクティブにサーフィンを再開したり表情豊かに話すようにもなった。辛い経験からやっと抜け出して変わっていく麻比呂を見るのは嬉しい事だが何があったのかと多少気になる。
「ったく留守番ってどうすりゃいいんだよ」
◆◇◆◇◆
『つばさくん!つばさくん!』
「ッびっくりしたっ!麻比呂どうしたんだよ、そんな汗びっしょりにして」
監視台の下から聞こえた声は大雨に降られようにシャツや髪を濡らして汗だくの麻比呂の姿があった。全速力で走ってきた呼吸は全く落ち着かず、中々話が出来ない麻比呂を台の上から不思議そうに見ているつばさ。
麻比呂は出来事の真相を知りたくて海岸まで来たが、丁度よくつばさも話合いが終わり海岸管理本部からいつもの業務に戻っていた。
「何だよ、あっそうだ。朝サーフィンだけどしばらく付き合えないかも。ちょっと色々あって休みがなくなー…」
『っっその!ハァハァ、、色々ってのはもしかして東くんと礼さん!?』
「えっ?ああ、何だもう麻比呂の耳にも届いてたのか。本当大変だったんだからな」
『それで今、礼さんは!?』
「真壁さん?分かんないけどたぶん家じゃないか?」
すかさず礼の名前を出した麻比呂は落ち着かない表情をしているが、それ以上に今にも泣き出しそうな顔していた。自宅に居ると言う事はやっぱり謹慎処分は本当なんだと確信したから。
「まぁ東もあんな騒動起こしたけど、さすがに今は反省はしてるし自分のした事に責任は取るって言ってた、、麻比呂?聞いてるか?」
『……謹慎って事はもしかして礼さんもう期限を待たずに須野から居なくなるかも、、?』
「真壁さんが?それはない。ってか麻比呂なんか勘違いしてる?謹慎なったのはー…」
"すいません!"と話している麻比呂とつばさの間を割って入ってきた若い夫婦。
どうやら目を離し隙に子供を見失って探しているが見つからないと言う迷子の相談だ。
「わかりました。すぐに探しますのでお子さんの特徴お願いします」
監視台から降りてきたつばさは完全に麻比呂を忘れて仕事モードに入る。肝心なところで会話が途切れてしまったが不安は更に胸を締め付けていてもたっても居られなくなり、麻比呂はまた走り出した。もちろん行き先は礼の家だ。
海岸通りの道路は渋滞の長い列でごった返していた。そんな車の間をすり抜けて麻比呂はただひたすら走る。頭をよぎるのはこの一件で礼が須野から去ってしまうんではないかと言う最悪のシチュエーション。
礼の家が近くなるといつもの心臓破りのあの坂がいつも以上に辛く足取りを重くする。それでもペースを落とさず歩を進める。
そしてやっとたどり着いた礼のアパート。相変わらずボロボロで崩れそうな外階段を勢いよく上がって、礼の家のドアの前に立つとドンドンと叩いた。反応もなく数回叩いても開かないドアに耳を当てて中の気配を確かめるか静かで物音は無い。
『礼さんっ、麻比呂ですっ!』
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